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無明のささやき
第十六章
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「その一丁でいい。そいつが今必要だ。」
敦は部屋を出て行き、しばらくして戻った。その手にはブローニングが握られている。
「佐野が電話で指示した口座に100万振り込んでくれ。いいな。」

 マンションを出ると、とっぷりと日は暮れていた。コートの襟を立て歩いた。飯島は怒りに震えていた。結局、箕輪の思慮のなさに呆れるばかりだった。殴りあいだったら仲間として頼りになる男だが、言葉の駆け引きには向いていない。
駅に向かって黙りこくって歩いていた。飯島が怒りを抑え聞いた。
「さっきの様子では、敦はお前と俺が来ることが前もって知っていた。」
「ああ、アポをとったからな。」
「馬鹿か、お前。」
箕輪は飯島の暴言に足を止めたが、飯島はさっさと歩を進めた。後ろから強張った声が聞こえた。
「馬鹿とは何だ。それが友人に対する言葉か。」
飯島が怒鳴り返した。
「馬鹿としか思えん。奴が佐久間と繋がっていたら、前もって佐久間に連絡したはずだ。俺たちは佐久間たちに見張られている。尾行されているんだ。」
「何だって、そんな馬鹿な。」
「いいや、見張られている。ひしひしと視線を感じる。箕輪、仙台に帰れ、奴らはお前が思っているような柔な奴らじゃない。もっと手強くて冷酷なんだ。お前のかなう相手じゃない。」
こう言って、飯島は全速力で駆け出した。小道に入り、できるだけ駅から遠ざかった。何も考えず息の続く限り走った。道から道に折れ走りに走った。徐々にだが視線が遠のいていくのを感じた。

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