第十六章
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・・・噂は。」
「それが噂じゃない。だが俺は女房を愛している。でもいつか痛い目に会うんじゃないかと心配しているんだ。俺は話を聞いた瞬間、これはいい機会になる、つまり良い薬になるんじゃないかと思った。しかし、少しでも危害が加われば、大変なことになる。」
ここで、間を空けた。竹内の息遣いがさらに荒くなった。
「お前がついていれば、俺も安心できる。そして香織の火遊びも止まる。お前、独立したいと言っていたな。もしここで上手く立ち回れば資金を出してやてもいい。」
長い沈黙だった。ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
「常務、やります。やらせて下さい。奥さんを必ず守ります。」
これが、運命を左右した瞬間だったのだ。
今にして思えば、あれは竹内の芝居だったのかもしれない。何故なら、会話は逐一録音されていたのだから。俺は竹内の脅迫に従わざるを得なかった。そして新たな指令が舞い込んだ。逆らうわけにはいかない。今の地位を守るために。
「ふざけるな。何で俺が佐久間に協力しなければならないんだ。」
敦は、箕輪の誠実な謝罪の言葉に感動さえ覚えているようだったが、話が佐久間のことに及ぶと急に声を荒げた。箕輪はじっと敦を見詰めるだけだ。しかたなく飯島が言葉を挟んだ。
「さっき、君は佐久間と面識があったことを認めた。その佐久間は西野家に復讐しようとしていた。そして君も西野家を憎んでいたはずだ。」
「ああ、佐久間のことは知っていたさ。佐久間から香織との手切れ金を受け取ったんだからな。会ったのは何年も前のその時、一度きりだ。それに、拳銃をお前に世話したが、それはお前が望んだことだ。餓鬼じゃあるまいし、今さら西野家にどうこうするつもりなどない。」
飯島は押し黙った。時間の浪費だった。道で会った他人に、貴方は泥棒ですか、と聞いているようなものだ。たとえそいつが泥棒であっても、はい、と答えるはずがない。箕輪さえいなければ、締め上げて吐かせるのだが、そうもいかない。裁定者を気取った箕輪の落ち着いた声が響いた。
「飯島、信用しようじゃないか。確かに、拳銃はお前が望んで買った。それは確かだ。それに敦が佐久間と繋がっているという証拠はどこにもない。」
飯島はだんだん腹がたってきた。結局、箕輪は自分流の決着をつけるに違いない。そして思った通りの言葉が箕輪の口から発せられた。
「過去はどうでもいい。いいか、俺たちを裏切るな。俺たちはこれから佐久間と対決する。俺とお前は友人だ。お前は友人の俺を裏切らない。俺はそれを信じている。」
こう言うと、ゆっくりとソファーから立ち上がった。敦が答えた。
「俺があんたを裏切るわけがない。」
ふたりは笑みを浮かべ握手した。飯島は舌打ちしながら二人の友情の場面に割って入った。
「拳銃が必要だ。金は払う。」
「今、自分用の一丁しかない。」
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