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無明のささやき
第十六章
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たが、断った。」
「なるほど、それで怒っているわけだ。ところで、これからどうするつもりだ。」
「これから、敦に会いに行く。駒込で待ち合わせたのは、敦のマンションが六義園の近くにあるからだ。敦に、佐久間との関係を問いただす。その前に、俺の流儀で奴に侘びを入れなきゃならない。手紙で断ったんだが、あいつ、その手紙が気に入らないのだろう。」
「つまり、男なら面と向かって断れということか。しかし、問いただすとしても、敦は本当のことを言うとは思えん。奴は、どっぷりとヤクザの世界に足を入れて、十年以上経つわけだろう。ヤクザの世界は、俺たち営業マンの世界より、より営業マン的だ。金になるならとことん食い下がる。」
「俺は、俺と敦の男と男の関係を信じる。誠意を持って話せば真実は浮かんでくる。」
飯島は箕輪の目を覗き込んだ。この男の単純さには驚かされることがしばしばだったが、それは男とはこうあるべきという箕輪の信念がその底流にある。しかし、世の中は、そんな男ばかりではないということを、この男も理解すべきなのだ。
「俺はそうは思わない。あの男のことは信用できん。」
「俺はあの男を信じる。」
結局は信じるか否かの問題なのだ。飯島はしかたなく折れることにした。
「今、3時だ。敦のマンションに、これから行くのか?」
「ああ、奴は昼過ぎまで寝ている。まともな状態になるのは午後3時か4時だ。今、行けばちょうど良い。」
飯島は伝票をとって立ち上がった。

 何故、こんなことになったのか、南は頭を抱え込み、深いため息をつく。あの時、何故あんな反応をしてしまったのか、南は今もって分からない。運命を左右した瞬間に思い浮かべた邪念が、全ての始まりであり、終わりでもあった。
南は思う。いや、最初から間違っていたのだ。香織との結婚が、そもそも間違いの始まりだった。夢のような話が舞い込んで、俺自身舞い上がってしまった。だから彰子を捨てた。高嶺の花と思っていた香織が俺を結婚相手に指名したのだ。どうして、あの誘惑に逆らえよう。
 香織の浮気性は病的だったが、目をつぶった。自分も好き勝手に遊べばいいと思った。そして彰子とよりを戻した。しかし、すぐにばれた。香織が本性を剥き出しにした。罵詈雑言を浴びせ、物を壊し、家具を倒した。家の中は足の踏み場もなくなった。
仕舞いには、どのこ馬の骨とも分からない男が、ただの小役人の倅が、これほどの生活ができるのは誰のお蔭か分かっているのかと詰られた。この時、俺は初めて香織を殴った。よよと泣き崩れるかと思ったのだ。
しかし、それが惨憺たる結果を招いた。それまで以上に半狂乱になって暴れ周り、そして俺の最も恐れる言葉を吐いたのだ。
「出て行け。この家からも、会社からも出て行け。」
俺は平身低頭し、許しを請うしかなかった。誓約書を書けと言われて、唯々
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