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無明のささやき
第十六章
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 飯島はソファに身を横たえ、見なれぬ部屋に戸惑いながら、視線を巡らせていた。窓から月明かりが差しこみ部屋の輪郭を浮かび上がらせている。微かな音が断続的に聞こえる。耳を澄ませ、音の方に首を傾けると、ヒーターの炎がちかちかと揺れていた。
 体を起こし窓の外を見ると、闇夜にくっきりとヘッドライトの細い帯が幾筋も伸びている。ここが、石原のマンションであることを漸く思い出した。同時に、自分が置かれている切羽詰った状況や昨夜の血なまぐさい事件が脳裏に蘇った。
 部屋の電気を点けると、柱時計の針は6時を少し周っている。ふと、テーブルに手紙が載っているのに気付き、取り上げて目を通した。そこにはこうあった。
「警察に行ってきます。まさか内海が偽者だとは思ってもみませんでした。私も迂闊としか言いようがありません。和子は、ショックでヤクザの顔を記憶から消し去っていましたが、私は内海の顔をはっきり覚えています。警察に行ってモンタージュを作るつもりです。出来あがったら電話を入れます。狙われているのですから、外へ出ないで下さい。食料は棚、酒は冷蔵庫に十分用意してあります。」
 食料という文字を見て、急にお腹がすいた。キッチンに行って冷蔵庫を開けるとカンビールで一杯である。上の棚の扉を開けると、夥しい数の即席麺とカップ麺が几帳面に並べて置いてあった。飯島は大きくため息をつき、しかたなくヤカンに水を入れた。 

 電話があったのは、午後7時半である。飯島が受話器を取ると、石原の弾むような声が聞こえた。
「飯島さん、今終わりましたよ。とにかくよく描けています。この男ですよ、この男。今、コピーをそっちに送ります。警察は情報を漏らすなって言ってますけど、秘密で、これからファックスします。もしかして、知った顔だという可能性もありますからね。受話器を置いてください。」
 しばらく待つとファックスが動き出した。ジーという音と共に紙が前に送られて来る。飯島はそれを手にとった。目をまん丸にして見詰めた。息が止まるほどの衝撃が襲う。何故だ?何故、奴が出て来るんだ。間違いなかった。それは、まさに、南である。
飯島はいらいらしながら電話を待った。しばらくして石原から電話が入った。石原の声は聞こえていたが、しばらくショックから立ち直れず言葉に詰まった。そしてようやく口を開いた。
「石原さん。確かに知った顔だった。でも想像もしなかった奴だ。」
「一体誰なんです。」
「南常務だ。間違いない。」
石原も押し黙った。別の男が受話器の向こうで叫んだ。
「おい、おい、誰なんだ、えっ、一体誰なんだ。」
どうやら、花田刑事も一緒だったようだ。石原が花田に似顔絵が南だと告げた。花田が、受話器を奪い取ったのだろう、向こうでがなり立てた。
「何で南が出てくるんだ。石原さんによると佐久間は南の女房を襲った
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