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無明のささやき
第十五章
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 夜中に目覚めた。時計を見ると、午前4時をまわっている。ざわざわと胸騒ぎがして、背中にひやりとする感覚が走った。昨夜、石川から連絡が入り、竹内が名古屋を発ったったと言う。しかし、この隠れ家を発見されることはないとたかを括っていた。
 ドアの方でカチッという音が聞こえた。飯島はベッドの下から拳銃を取り出し、むっくりと起きあがった。ドアに近付いて耳を済ませた。誰かがドアの鍵を開けようとしている。微かに金属の触れ合う音がする。
 飯島は静かに後ずさりして、ベッド脇のフットライトを切り、枕を二つ、毛布の中に入れて膨らみを作った。そして、出窓に上って遮光カーテンの裏に身を隠し、隙間から部屋の様子を窺った。
 すると、ドアが僅かに開かれ、男が部屋の中を覗き込んでいる。逆光のため顔は見えない。ドアチェーンにタオルを巻いている。終わると、ボトルクリッパが差し込まれチェーンが切断された。男がゆっくりと部屋に踏み込んだ。手には拳銃が握られている。
 ベッドの前まで来ると、黒い影は方向を変えた。廊下の光が微かに男の横顔を浮かび上がらせたが、覆面をしているようで、顔の凹凸ははっきりしない。男は、低い声を発した。
「おい、飯島、起きるんだ。お迎えに来たぞ。先輩が待っている。起きろ。」
男はベッドの方に数歩近付いた。飯島の潜む出窓から見ると背を向けたかっこうである。飯島は息を殺し、出窓から降りた。銃を両手で構え、男に声をかけた。
「お迎え、ご苦労さん。」
男は振り向きざまに銃を向けようとしたが、一瞬はやく飯島が自分の銃でそれを叩き落した。飯島は銃を構え直し叫んだ。
「動くな、動けば撃つ。手を上げろ。」
こんな台詞を現実に吐こうとは想像もしなかった。飯島は、映画の主人公にでもなったような気持だ。
「お前の左の壁に電気のスイッチがある。点けろ。」
男は、観念したように背を向けてスイッチの方に近付いた。ぱっと部屋が明るくなった。飯島が言った。
「さあ、ゆっくりとこっちを見るんだ。そして覆面を取れ。」
男はくるりと振りかえりながら、右手で覆面を取った。その顔を見て、飯島は和子を襲ったヤクザだと確信した。和子の記憶に微かに残った男の特徴、ごつい顔つき、まさにその通りである。男は冷酷そうな目を細め、にやりとして口を開いた。
「あんたに、俺が撃てるか。」
「安心しろ、撃ち殺してやるよ。和子のお腹には子供がいた。それをお前等は容赦なく殺した。死んでその償いをさせてやる。」
と言って、銃口を男の右目に押し当てた。男の左目は恐怖に揺れた。その瞬間、入り口で誰かが叫んだ。
「正一、伏せろ。」
飯島の視線がドアの方に向けられた瞬間、ヤクザが右脇に伏せた。と同時に飯島は左に飛んだ。銃弾が体を掠めた。その瞬間、時間がゆっくりと流れ始めた。浮いた体は壁めがけて飛んでいる。飯島は
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