第十四章
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と近づいて、背中を押した。淺川は悲鳴をあげて30センチほど飛び上がった。ヤクザがその声に気付いて、ゆっくりと近づいてくる。淺川はそれを見て、脱兎のごとく駆け出した。背中を押したのが飯島だと気付かずに逃げ出したのだ。
男は近くまで来て飯島に気付いた。
「今、声をあげたのはお前か?」
飯島は後ろを振り向き、指差して言った。
「いや、この道を全速力で走っている男がいるだろう。あいつが悲鳴をあげたんだ。俺じゃない。」
「お前はここで何をしている。」
「南香織さんがハーベストから出てくるのを待っている。」
男の顔に緊張が走った。手がすばやく胸に滑り込む。すかさず、飯島が言った。
「怪しい者ではない。ニシノコーポレーションの飯島と言う。これが名刺。」
名刺を差し出すと、男は左手でむしりとるようにして、目の前にかざした。
「資材物流センター長だって。なんでそのセンター長さんが、常務の奥さんを、こんな所で待ち伏せしている。まして、どうして奥さんがここにいると分かった。」
右手は胸に差し込んだままだ。
「さっき逃げて行った男が奥さんとあんたの後をつけて来た。そしてこの場所を俺に知らせてくれたんだ。奥さんは、俺の名前を言えば必ず会ってくれる。もし、ここで俺を追い返せば、あんたは奥さんにこっぴどく怒られることになると思う。」
「俺が、お前が来たことを黙っていれば分からない。」
「ここで会えなければ、家に電話するまでだ。」
男は、むっとした表情を浮かべたが、しかたなさそうに携帯をとりだし、ボタンを押した。
「奥さん、村尾です。飯島って野郎が、奥さんに会いたいと言って、入り口に来ています。追い返しますか。」
はい、はい、と短く答え、受話器を手で覆い、
「どちらの飯島さんですか?」
と聞いた。丁寧語になっている。
「ニシノコーポレーションの飯島だと言ったはずだ。南常務の元友人だと言えば分かる。」
間もなく香織が出てきた。まさにあの写真の女だ。恍惚とした女の顔が脳裏に浮かんだ。コケティッシュな雰囲気はそのままだが、35歳のわりには化粧が濃い。香織はふてくされたような顔で、飯島を睨み付けいてる。ふっと息を吐いた。
「私に何の用なの。」
「どうしても話がしたかった。」
「飯島さん、例のものをもっているって、嘘を言ったそうね。」
「ああ、売り言葉に買い言葉だ。」
「その嘘で痛い目にあったんでしょう。もし、ここで変なことをすれば、今度は容赦しないわよ。」
男が飯島の斜め前に一歩進み出た。飯島は男を無視して、香織に話しかけた。
「香織さん、実は、女房が殺された。」
これを聞いて、両目を見開き、「嘘」と言って口を大きく開いた。遅れて両手がその口を覆う。飯島が続けた。
「女房は、二ヶ月前、ホテルで二人の男に襲われた。幸いにも未遂に終わったが、
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