第十四章
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ことより、飯島に拳銃を渡すことの方が本筋ではなかったか。つまり、向田も佐久間の仲間である可能性が出てきたのである。
あの時、佐久間は、飯島の殺意を喜んで受け入れようとした。殺されることを熱望したのだ。そして、佐久間は飯島がガンマニアであることをしっている唯一の男なのだ。それにもうひとつ、佐久間は飯島のある性格を熟知していた。
もし、あの時、激情に任せ引き金を引いていれば、飯島は、生涯殺人者のレッテルを背負い、悔恨の情に苛まれ、死ぬ以上の苦しみを味わったはずである。佐久間の熟知するある性格とは、激情と悔恨である。これこそ飯島を特徴付ける負の性質なのだ。
その負の性質を抑制する術を教えてくれたのも、また押さえ難い激情を鷹揚に受けとめてくれたのも佐久間だったのだ。もし、すべてが計画されたものだとするなら、正に彼ならでわのシナリオと言わざるを得ない。
恐らく、家は盗聴されている。反撃に出るために家を出た。飯島は一人で、相手は複数、しかもヤクザも絡んでいる。伸び放題の髪と髭が人相を変え、サングラスをかければ飯島と分かる者はいない。ジーンズに濃いグレーの革のハーフコートを買い入れた。
六本木は若い頃、随分と通ったものだが、今はかなり様変わりしている。ふと昔の記憶が蘇り、淺川の言っていた場所を心の中にイメージすることが出来た。考えてみれば、そこは章子と最初に待ち合わせた場所からさほど離れていない。
飯島は六本木の夜の街を散策しながら、徐々に目的の場所に近付いていった。若者が集まる場所から遠ざかり、クラブやバーがひしめくネオン街に、そのビルディングはある。時計をみると既に9時を少し回っている。
行き交う人々は、それぞれの社会に属し、その中で苦悩し足掻いている。そこから逃げ出すわけにもいかず、そこで生じるストレスを、酒、異性、ギャンブルに発散させている。それは今も昔も少しも変わりはしない。
勤め人風の若い男女のグループと擦れ違った。二次会に向かうのだろうか、笑ったり、叫んだり、騒ぎながら飯島を追いぬいていった。ふと、若者達を憮然と眺める自分に気付き苦笑いした。自分にもそんな時代があったことを思い出したのだ。
その時、一人の若い女が笑いながら振り向いた。飯島は女に章子の面影を重ねた。苦い思いが蘇る。南の腕にすがりながら、章子は振り向き、はにかむような笑顔を作る。見詰め合うその一瞬の淡い思いが心を焦がす。盛り上がった後の空しさ、二人がホテルに向かう後姿を見送るやるせなさ。飯島は溜息をついた。
トレンチコートの襟を立て、暗がりで目を光らせる淺川を見つけて、飯島は思わず吹き出した。まさに探偵を絵に描いたようだいでたちだ。でも目立ちすぎる。向かいのビル入り口に立つヤクザを見張っているのだ。まさに探偵になりきっている。
後ろに回ってそっ
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