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無明のささやき
第十三章
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反省しないために、彼女は死ぬはめになったのだから。」
飯島の心の片隅に押さえ込んでいた激情が、いきなり炸裂した。佐久間の胸倉を掴み、背中から拳銃を取り出すと、佐久間の鼻先に付きつけ、怒鳴った。
「この気違い野郎が、やはり、貴様だったんだ。貴様が、和子を殺したんだ。その償いをさせてやる。」
「そうだ、俺が和子を殺した。ふん、気違いだと。俺を気違いにしたのは誰だ。」
「黙れ、殺してやる。いいか、これはモデルガンじゃない。本物のスミス&ウエッソンだ。カートリッジには7発の鉛弾が詰まっている。さあ、お祈りをしろ。」
飯島は本気で殺すつもりだった。和子の復讐を遂げることで、自分の人生を終りにしてもよいと思った。佐久間は狂気に満ちた目で、飯島を見詰め、そして言った。
「そうだ、飯島、俺はお前の元奥さんを殺した。そしていずれお前を殺すつもりだ。そうだ、飯島、今、ここで俺を殺せ。今、俺を殺すんだ。」
佐久間の眼差しには、強固な意志と狂気が入り混じり、その唇はわなわなと震えていた。直前まで、飯島は銃を見て怯える佐久間を想像していた。しかし、佐久間は自分を殺せと叫んでいる。一瞬、飯島は途惑った。
 死を熱望する?佐久間の歪んだ唇から笑みが洩れる。ふと、風呂場での体験を思い出した。佐久間はあの時の自分と同じように恍惚の中にいるのではないか。あのライオンを挑発したインパラのように。死を賭す恍惚の中に。飯島の激情は一気に醒めた。
 佐久間は死にたがっている。飯島は、思った。ならば殺すわけにはいかない。飯島は狂気から立ち直り、にやりとして言った。
「佐久間さん、何を死に急いでいるんだ。何故、そんなに死にたいんだ。」
佐久間は冷静を装いながらも、その視線は揺れた。
「別に死に急いでなんていない。いいか、俺は和子を殺したんだぞ。子供もろ共、殺した。分かっているのか。敵を討ちたいと思わないのか。何を躊躇している。貴様、それでも金玉をぶる下げているのか?」
「嘘を言うんじゃない。お前は死に急いでいる。つまり、自分が死ぬこと、そして、俺を殺人者に仕立て上げることが目的ならば、その手には乗らない。えっ、佐久間さんよ。」
と言うと、飯島は掴んだパジャマの襟を放した。佐久間が叫んだ。
「飯島、今、俺を殺して全てを終わらせろ。俺は罪もない和子を殺したんだぞ。」
飯島は立ち上がり、佐久間を見下ろした。そして言った。
「あんたは狂っている。俺も狂いかけてはいたが、幸いまだ正気が残っていた。あんたは、俺を狂わせて、自分を撃たせようとした。しかし、何度も言うが、俺はまだ正気だ。」
何と言うことだ。和子殺害の目的が飯島を殺人者に仕立てることだったとは。佐久間の狂気が肌を粟立たせた。佐久間を殺していたら、和子は浮かばれなかっただろう。飯島は、拳銃を背中に戻し、ドアに向かった。佐久
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