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無明のささやき
第十三章
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島の倒れる音に驚いて、石原が救急車を呼んだのだろう。
誰かがベッドの横に座っている。焦点を合わせた。そこにいるのは斎藤である。
「気付かれました、所長。」
「ああ、ようやく目覚めた。いつから付き添っているんだ。」
「いや、さっき来たところです。でも良かった、眠ってから今日で3日目だそうです。今時、栄養失調で入院だなんて。それに、あの日以来だから、一週間以上経っていますよ。その間、いったい何をやっていたんです。顔なんて半分くらいに縮まっていますよ。」
「馬鹿野郎、骨は縮まらん。でも、そんなに、一週間以上にもなるか?」
「ええ、間違い無く、1週間以上経っています。正確には、ええと、8日目ですね。」
飯島は和子のことを思い出し、飛び起きた。
「か、和子はどうしたんだ。石原さんは和子が死んだって言っていた。」
「ええ、先日、石原さんから、飯島さんを見舞ってくれって頼まれたんですけど、その時、聞きました。本当にお気の毒です。和子さんは酔っ払い運転の車にひき殺されたんだそうです。」
「げ、下手人は捕まったのか。」
下手人などと言う思いも掛けない言葉が突いて出た。気が動転している。斎藤が怪訝な顔で答えた。
「ええ、犯人は捕まっていますし、罪も認めています。」
「で、石原さんは何と言っているんだ。」
「石原さんですか、彼は特に言ってませんでしたが・・・。」
「葬式はいつだ。」
「確か金曜だと聞いてますが。」
「今日は何曜日だ。」
「土曜ですから、もう終わってます。」
飯島は、点滴の針を抜いて、ベッドから起きあがった。斎藤は止めようとしたが、飯島はそれを振り切った。
「俺は、もう大丈夫だ。とにかく石原さんに会う。着る物はどこだ。」
「そんなこと分かりませんよ。この病院のどっかにあるんでしょうが、僕はさっき来たばかりですから。」
飯島は、斎藤からお金をふんだくると、その場を駆け出していた。スリッパのまま、病院前でタクシーを捕まえて、取り合えず家に急いだ。
家に着くと、部屋は乱雑を極め、拳銃がソファーの下に転がっていた。部屋に行って、箪笥に銃を隠し、急いで喪服に着替えると、飯島は駆け出した。駐車場の車に乗り込み、アクセルをいっぱいに踏み込んで、石原のマンションへと急いだ。

 30分後、飯島は石原と向かい合っていた。既に葬儀は済み、白い布に包まれた和子がテーブルに置かれている。その小さな箱の中身が和子の全てだった。それを挟んで二人は無言でうな垂れていた。
 少し前、飯島が駆けつけチャイムを鳴らすと、しばらくして石原がドアからのそっと顔を出した。何も言わず、飯島をこのテーブルまで導いた。
 飯島の目に涙が滲んだ。石原の目に涙はない。時折、乾いた視線を飯島に向ける。飯島は変わり果てた和子を見詰めた。和子を抱きしめたかった。しかし、
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