第十三章
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ち上がると、窓のカーテンを少し開け外を見た。通りは、帰宅を急ぐ勤め人の靴音が時折響くだけで、怪しい人影もない。佐久間達が蠢いているのは肌で感じていた。だから、その襲撃を待っているのだが、迫り来る危機の気配がないのだ。
飯島の体はかなり衰弱している。何も食べていないのだから、当然といえば当然だ。飯島はよたよたと立ちあがり、買い込んであるウオッカの瓶を取りに台所に向かった。そこに、死んだ父親がいた。ウオッカを美味そうに飲んでいる。飯島が言った。
「どうして戻ってきたんだ。あの世でお袋に会えなかったのか。」
「いや、会えた。待っていないかもしれないと、実は心配していたんだが、なんとか会えた。本当に良かったよ。」
飯島は笑って父親の肩に手を置いた。すると父親が、飯島の目を見詰めて言った。
「母さんが、お前のこと心配してるぞ。」
「分かっているって。もう少しで今の状態から抜け出せる。そのウオッカの瓶、頂だい。」
父親は、その瓶を床に落とした。瓶が割れて、ガラスがこなごなに飛び散った。そして父親の姿が消えた。酒はもうよせというわけか。
そうか、母さんは、俺が心配なんだ。分かったよ。心配するな。俺ももう少しで立ち直る。自分でも分かってはいるんだ。和子のことは忘れる。和子の幸せを壊すなんて考えない。分かっているって。何も心配するな。
和子を殺して自分も死のうなんて考えてない。拳銃をヤクザから奪った時、一瞬、飯島の頭をよぎった負のイメージが、自分の意思とは裏腹に大きく膨らんだ。自分を裏切った和子を憎み始めていた。嫉妬が飯島を狂わせたのだ。
飯島は、顔を歪め、声を張り上げて泣いた。そうすることで、邪まな感情を絞り出さねばならない。よろよろと風呂場に行き、水の中に顔を沈めた。水中で何度も叫んだ。水から顔を上げ、大きく深呼吸した。そして一言呟いた。
「これで、お前とはお別れだ、和子。いつまでも俺にまとわり着くな。」
電話のベルが突然鳴り響いた。嫌な予感が脳裏を過った。飯島は受話器を握った。男の声が響いた。
「もしもし、飯島さんですか。石原です。」
飯島は、沈んだ石原の声に、不吉なものを感じ取った。「まさか、そんな馬鹿な」と心の中で叫んだ。しばらくして受話器の向こうから嗚咽が漏れた。石原が泣いている。飯島が叫んだ。
「和子に何かあったのか。石原さん、何があったんだ。」
「飯島さん、和子が死んだ。車に跳ねられて、死んでしまった。」
「何だって。いつだ?」
「3日前だ。頭が混乱していて、飯島さんに知らせするのを忘れていた。」
目の前が一瞬にして真っ暗になった。飯島は受話器を落とした。気を失ったのだ。
飯島は、ぼんやりと窓の外を見ていた。街灯が灯っている。視線を動かすと、点滴の袋が吊るされている。どうやらここは病院のベットのようだ。飯
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