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無明のささやき
第十三章
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ビに見入った。教徒が言う。
「不思議な世界があるのです。それを否定することなど、誰にも出来ません。超能力を得たいと思いませんか。」
飯島は思わす笑ってしまった。彼らの宗教の本質が終末思想だということを知っていたからだ。滅びを生き延びて永遠の命を得ようとしている。
「お前達には無理だ。死に対峙してこそ超能力が得られるのだから。」
 先ほどの女性の透視も、飯島の体が衰弱していること、そして何時襲われるかもしれないという恐怖と戦うことにより感覚が研ぎ澄まされて始めて可能になったのだ。飯島は、何度も不思議な体験をしている。それは常に死に対峙した時に現れる現象なのだ。
 その特異な体験をしたのは高校3年の時のことである。当時、山道をバイクで疾走するのが夏休みの日課だった。或る日、急カーブで突然対向車が目に入った。10トントラックが猛スピード突進してきたのである。体中に緊張が走った。
 必死で重心を左にかけ、車体を思い切り傾けた。バイクのスピードは70キロを越えていた。揺れるハンドルを握り締め、ぎりぎりのコーナリングを試みた。その瞬間、不思議なことが起こった。時間が冗長に流れ始めたのだ。
 そして飯島はトラックの横に書かれた社名、横浜京極運輸株式会社の文字を一字一字ゆっくりと読み終えて走り抜けたのである。時はゆっくりと流れることがある。これは、飯島が体験から得た真理である。それは体験した者にしか分からないし、体験したことのない人間には、単なる法螺としか聞こえないだろう。
 以前、ある俳優がテレビで同じような体験を語っていた。その体験とはこうである。台所のプロパンが爆発し、この俳優は吹き飛ばされた。空中で後を振りかえると、棚が倒れ、破損した食器が当り一面に散乱していた。
 彼は一ケ所だけ、何もないスペースを見出した。左足は怪我をしており、右足でそのスペースに降りた立つしかない。彼は狙いをすまして右足を伸ばした。幸い時間がゆっくり流れていたため、彼はすとんと右足の着地に成功したと言うのである。
 共演者達は彼の話を冗談だと思ったのだろう。皆、腹を抱えて笑っていたが、その俳優は至って真面目で、本当の話であると主張繰り返した。しかし、誰一人として信じようとはしなかったのである。
 この俳優も、恐らく死ぬかもしれないと思ったはずである。だからこそ時間が冗長に流れると言う不思議な現象が起こったのだ。不思議な体験は、全て死を意識した時に起こるものなのである。
 山伏と呼ばれる山岳宗教の信徒は、間違い無くこの本質を理解していた。死に対峙することによってのみ神秘体験は得られる。だから、山が修行の場に選ばれた。体力の限界に挑み、生死の境をさ迷い、つまり死に近付くことによって何かを得られることを、彼等は知っていたのである。修行とは死と向き合うことなのだ。
 飯島は立
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