第十二章
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悪い夢をみていたのか、びっしょりと汗をかき、その冷やりとする感覚で目覚めた。額の汗を拭うと同時に頭痛と吐き気が飯島を襲った。胃液が食道をさかのぼる。それを押さえようと必死で唾液を飲み込んだが、間に合わずに苦い液体を一気に吐き出した。
深呼吸して息を整えたが、その息はことのほか酒臭い。時計を見ると、既に午後5時を回っていた。ここ数ヶ月、ヤケ酒と嘔吐が繰り返され、朝の頭痛は年中行事のようになっていた。ゴミタメのような部屋に異臭が漂っている。
そんな部屋から一歩出る時は、糊のきいたワイシャツにカフスを飾る。そもそも和子がいればこそ、飯島の生活のバランスは保たれていた。その要が失われた今、自宅は蛆が湧きそうなほど汚れきっていた。
買い置きの水をガブ飲みし、その口から漏れた水がシャツを濡らした。諦念という言葉を反芻した。和子は既に別の男と暮らしている。この事実を冷静に受け止めるしかない。濡れたシャツもいつしか乾くように、心の空洞も満たされる時もいつか来る。
飯島は、昨日の石原との約束を思いだし、その場で南に電話を入れた。南の女と噂される秘書の戸惑ったような対応に苦笑いしながら、飯島は煙草に火をつけた。ややあって、南の甲高い声が響いた。
「なんだ、誰かと思えばお前か。まだ会社にいたのか、とっくに辞めたのかと思っていたよ。」
「馬鹿言うんじゃない。有給休暇は3ヶ月も残っている。本来なら5月末まで籍を置くことも出来るが、二ヶ月おまけしてやる。有難く思えよ。ところで、石倉のことだが、可哀想なことをしたな。まさかあんなことになるなんて。」
南は押し黙ったままだ。
「あいつは、自殺するような玉じゃない。恐らく、佐久間に殺されたんだ。」
飯島は誘い水をさしたのだが、南の反応は飯島を落胆させた。
「殺しても死にそうもない奴ほど、あっさり自殺してしまう。世の中はそんなものだ。石倉もそうだったんだろう。」
「おい、まじで言っているのか。お前だって、佐久間の仕業と思っているはずだ。あの写真のことを思い出せ。」
少し間を開け、南が答えた。
「写真、何のことだ。俺はそんなものは知らん。」
飯島は努めて冷静に言った。
「おい、おい、南、俺は刑事じゃない。本音を言ったらどうだ。お前が、それを隠したいのは分る。俺も、その気持ちを尊重するつもりだった。しかし、考えが変わった。何故なら、石倉が殺されたからだ。考えてもみろ、石倉をセンターに異動させたのは佐久間だ。お前がそう言ったはずだ。とにかく、俺は警察にあらいざらい話すつもりだ。」
「勝手に話せばいいるだろう。しかし、おれは、何も知らないし、何も見ていない。まして佐久間が石倉をセンターに異動させたなんて馬鹿げている。誰がそれを証明するんだ。お前は、夢でもみたんじゃないか。」
「どうあっても、証言するつもりがな
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