第十一章
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
佐久間は押し黙った。サンプルBは、佐藤が飯島の頭から引き抜いた毛髪である。憎悪が心の中で増幅されて行く。血圧が上がって、更に憎悪が増す。佐久間が叫んだ。
「みんなして俺をコケにしやがって、みんなぶっ殺してやる。殺す、飯島を殺す。竹内、俺に力を貸してくれ。頼む。」
「ああ、いいよ。だけど500万じゃ、話しにならない。分かるだろう。俺だって、事務所を構えるのにコストがかかっているんだ。そんな金額で危険を犯すわけにはゆかない。さて、どうする。」
佐久間は黙っていた。竹内が何を言わんとしているか分かっていたからだ。沈黙が続いた。
「まあ、ゆっくり考えるんだな。」
竹内の冷たい声が響いた。
飯島は電話のベルで起こされた。目を擦りながら、受話器を取った。懐かしい声が響いた。名古屋支店の石川である。
「ああ、なんだ石川か。どうした。それより、今、何時だ。」
「もう昼過ぎです。会社に電話をしたら出て来ていないって。どうしたんです。」
「もう、会社には行く気がしなくなった。で、どうした。もうヨシダに移ったのか。」
「ええ、1週間前に。本社採用ですからすぐに移りました。淺川は未消化の有給休暇をこなしていますよ。実は、あいつを潟シダ建設の東京支店に紹介したのは私なんです。」
「ああ、そうだと思ったよ。ところで何か俺に用事か。例の件はお断りだぞ。もう会社とは縁を切ることにした。」
「ええ、それは淺川から聞いています、でも、ちょっと気になることがあって。実は、臼井の爺さんが、この前、南常務と竹内を名古屋市内で見掛けたと言うんです。それも接待用のクラブで一緒に酒を飲んでいたそうです。」
「ほう、それで。」
「それが、変なんです。まあ、臼井の爺さんがそう言っていたんですが、どう変かと言うと、南常務が竹内にお酌していたそうです。しかも、両手で。更に言うなら、ビール瓶の底に左手を添えてですよ。」
これを聞いて、飯島は笑った。声を上げて笑った。石川もつられて笑っている。竹内相手に南がそこまでやるとは想像も出来なかったからだ。
「石川、いったいどうなっているんだ。」
「私にも分かりません。部下を自分の奴隷だとしか思っていない南常務が、竹内にお酌するなんて考えられませんよ。まして、自分が首にした男ですよ。」
ふと、もしやという思いが過った。南に弱みがあるとすれば、例の女房のあられもない写真である。もし竹内が佐久間と組んでいると仮定すれば、竹内の破格の扱いも理解出来る。
南常務が、竹内にそこまでおもねるということは、その可能性も考慮すべきであろう。だとすれば南常務に対する脅迫はまだ続いており、さらに竹内は和子襲撃にも関与している可能性がある。
「それでですねえ、」
押し黙る飯島に対し、石川が待ちかねたように声を掛けた。
「実は、私、先週行っ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ