第十章
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一息ついて続けた。
「それでは、そのヤクザの身になって考えてみましょう。そいつは和子と偶然出くわさないように注意すれば良い。つまり出来るだけ八王子を避けるでしょう。それでも不安であれば顔を変えることも出来る。整形手術なんて安いものだ。」
石原の言うことももっともで、飯島も思わず唸った。
「確かに、そのとうりだ。和子を襲った犯人がそんなアウトローであれば、顔を変えることなんて、何とも思わないだろう。」
「そうです、だから和子を殺すような危険をわざわざ冒す必要はない。勿論、殺人が強姦や窃盗くらいの重みしかないアメリカなら話は別ですけどね。」
飯島は、じっと石原を見詰めた。こいつは見た目ほど馬鹿ではない。むしろ頭は良い。そう思った。和子が惹かれたのも分かるような気がする。
「いやー、参った。石原さんの言うことは尤もだ。俺もアメリカ映画の見過ぎで、ちょっと騒ぎ過ぎたようだ。でも、石原さん、もし、そのヤクザがアメリカ映画のファンだったらどうする。」
「飯島さん。私も最悪の事態は避けたいと思っています。だから、和子のためにも、お願いがあります。先程、佐久間が南常務の細君を襲ったことを警察に言ってないと仰った。どうしてです。」
「南と約束した。あの写真を公にしないと。」
「お願いとは、そのことです。南さんとの約束を反故にして、警察に話して下さい。それは和子のためでもあります。その写真については和子も証人になります。」
和子も頷く。石原が真剣な眼差しで飯島を見つめた。懇願する目だ。
「分かりました。一応、南に言ってから警察に話をしましょう。」
「どうも有難うございます。」
石原が頭を下げた。和子も慌てて石原に寄り添い、それに倣った。そんな和子の動作がストップモーションのように瞼に焼きついた。
事務所を出て、飯島は孤独を噛み締めた。和子はすでに石原の女房になりきっていた。石原の慧眼には恐れ入った。確かに、和子に危険を知らせようとしたのは事実だが、飯島は心ときめかせ、和子に電話を入れたのだった。
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