第十章
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回っている。そして「小包だって何が入っているか分からん。最近はやりの小包爆弾ってこともある。」と言う佐久間の言葉を思い出し、咄嗟に叫んだ。
「おい、その小包は開けるな。差出人は誰だ。」
「えーと、榊原和人。ああ、石原の依頼人よ。でも何で。」
「馬鹿、もし小包爆弾だったらどうする。」
「何言っているの。ねえ、どうかしてるわ。今日のあなた、少し変よ。」
「とにかく、今から、そっちに行く。開けずに待ってろ。」
飯島は自宅から駆け出し、車に飛び乗った。
石原の事務所に着くまで、気が気ではなかった。万が一の可能性であっても、用心にはこしたことはない。とにかく相手は気違いなのだから。エレベータを待つのももどかしく階段を駆け登った。扉のガラスに石原弁護士事務所という文字を認めると、ノブを回し中に入った。
事務所に一歩入り、目の前に広がる光景を見て、飯島は拍子抜けして言葉を失った。石原と和子がテーブルを挟んで座っている。そのテーブルの上には小包が置かれているが、既に開封され、その中に夫婦茶碗が納まっていた。
包装紙はびりびりに破かれ、テーブルの周りに散乱している。石原と和子は、突然飛びこんできた飯島を不安そうに見上げている。飯島は言葉に詰まった。無言で立ちつくすしかなかった。その場を救ったのは和子である。
「とにかく、今、お茶を入れるから。さあ、そんな所につっ立ってないで。さっさとここに座って。」
と言うと立ちあがり、台所に消えた。飯島は言われるがままに石原の前に座ったが、気まずい雰囲気はいかんともしがたく、おもむろに煙草を取り出し、火を点けた。煙草をせわしなく吸い、同時に乱れた息を整えるべく深呼吸までしなければならなかった。
やや、あって和子がお茶を持って二人の前に現れた。お茶を飯島の前に置き、自分は石原の横に腰掛けた。それは和子にとってはごく当たり前のことなのだが、飯島は何故か敗北感に打ちのめされた。和子が口を開いた。
「さあ、詳しく話して、何もかも。夫婦喧嘩までして、私はこの小包が、あなたの言った通り小包爆弾かもしれないって言い張ったわ。でも、この人は、あなたがまだ私に未練を持っていて、私と接触したいがために、訳の分からないことを言い出しているって。」
飯島はぎょっとして石原を見つめた。石原のそんな思いなど想像もしていなかったからだ。石原が慌てて言った。
「おい、待てよ。そんなことは言ってない。ただ、」
「ただ、何なのよ。ヒステリックに包装紙を破って、箱を開けたじゃない。もし、それが爆弾だったら二人とも死んでしまったわ。」
「だけど、爆弾じゃなかった。こうして二人は生きているじゃないか。爆弾なんかじゃなかったんだ。」
と言って、石原は飯島をちらちらと見る。石原の眼鏡のレンズが汗で曇っている。飯島はようやくこの場で
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