第十章
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「だけど、石原さんは良心的な弁護士だと聞いている。」
「ああ、確かに石原さんは堅物だ。でも、親父さんは、そうでもなかった。かなりのやり手で、怪しい会社とトラブルを起こしている。あんたの元奥さんもそれを認めているんだ。」
こう言うと、溜息をついて続けた。
「しかし奥さんが、ショックで犯人の顔を全く思い出せないのは、返す返すも残念だ。ヤクザっぽい顔って言われても、それだけじゃ如何ともしがたい。」
飯島はまたしても押し黙るしかなかった。写真のことが表に出せないのでは、何を言っても説得力に欠ける。ややあって聞いた。
「さっき、佐久間にはアリバイがあるって言っていましたけど、佐久間さんの居所を掴んでるんですか。」
「ああ、ようやく掴めた。佐久間は入院していた。立川市立病院だ。その日、つまり石倉が自殺した日、佐久間は膝の手術を受けている。今、姉さんが面倒を見ているがね。」
飯島は、それでも食い下がった。
「でも、誰かに命令することは出来たはずだ。和子を襲ったヤクザっぽい奴に命令すれば何とでもなる。」
「飯島さんよ。それは考えすぎだって。ヤクザは金が絡まなければ動かない。そう言う連中なんだ。だから無一文の佐久間がそんなこと出来るわけがない。」
飯島は「それは違う」と心の中で叫んだ。佐久間は5000万円という大金を手中に収めた。それだけのお金があれば、ヤクザに殺しを依頼することは可能だ。しかし、それを言えば南との約束を破ることになる。飯島は、花田に対し、とうとう金のことも写真のことも言い出せず、電話を切るしかなかったのである。
飯島は考え込んだ。確かに佐久間は総務部長という仕事柄、裏街道の男達と交渉を持っていた。そんな男達の一人をスカウトし、復讐のために先ず南の女房を、次に和子も襲わせた。これは確かな推理である。
南の女房、飯島の妻、和子、そして石倉、三者とも佐久間の復讐の対象となりうる。佐久間が復讐を遂げようとしているのは確かであり、その最終的な狙いは飯島である。何故なら、飯島は長年章子と関係を持ち続け、佐久間に多額の保険金を掛けて、その死を待っていたのだから。
飯島には身に覚えのないことだが、佐久間がそう信じているのだからどうしようもない。相手は狂人なのだ。
ふと、背筋に冷やりとするものを感じ、ぶるっと震えた。不安が徐々に胸いっぱいに広がっていった。もし、例のヤクザが石倉を殺したとするなら、和子はその唯一の目撃者であり、命を狙われる可能性があるということだ。
飯島は間髪を入れず、石原の事務所に電話を入れた。幸い和子が出た。いつもののんびりとした声で答えた。
「はい、石原弁護士事務所でございます。どちらさまでしょうか。」
「和子か、俺だ、飯島だ。どう説明したらいいか分からないが、どうも変な状況になってきた。あの
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