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コシヌケ
コシヌケ
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[1] 最後
 エゾハルゼミがうるさく鳴く季節の釧路湿原。
 あたりが真っ暗になった湿原をゆったりと蛇行しながら流れる川――。
「あれ人じゃないですか?」
 ツワーの後片付けをしていたカヌー業者の男の一人がふと上流部を眺めると月あかりに照らされた人のような物体を発見した。
「そうだな」  
 その男の上司が答えた。
「杉さん。そうだなって。早く助けなきゃ」
「もう死んでるよ。流しとけ」
「そんなこと言っていいんですか?レスキュー3[ アメリカ合衆国に本部を置く、緊急救助活動に関わる民間団体の名称である。特に急流救助に完成度の高いシステムを構築しており 。日本にも支部が置かれ講習活動を展開し、多く の急流救助専門員を育成している。]持ってる人が」
「わかったよ。めんどくさいけどやるか。とりあえず、消防呼べ」
「はい」
 その男は携帯電話を取り出し消防署に通報した。
「あれは完全に意識無いな。バック[ スロー・バッグといい。円柱形バックの中から水に浮くロープの先端を取り出しその先端をしっかりと握り、バックを漂流者に向かってアンダースローで投げて使用する。]は無理だ。フローティングロープ持ってこい」
 上司はその男に指示を出し、車に積んでいたライフジャケットを着用した。そして、車を止めていた土手の上からおりて川に近づいていった。
「三〇でいいですよね?」
 車から遠ざかっていく上司にその男が叫んだ。
「ばか。川幅一五なのになんで三〇なんだよ。対岸に張るときは川幅の三倍以上っていつもいってるだろ」
 上司は立ち止まって後ろを向きその男を叱り付けた。
「すいません。四六のロープでした」
 上司に怒られ、その男は浮かない顔をして車の後ろにまわった。
「おい。早くしろ。仏さん。流れちまうぞ」
 川瀬の前に到着した上司は後ろを振り向きその男をせかした。
「はい」
 その男は急いでそのロープを手にして「うるせえ。杉澤。こんな状況いつもあるわけねえだろ」と小さく呟き、上司のもとに駆けつけた。
「お前。ライフジャケットは?」
「忘れました」
「お前。俺に泳がすきか?」
「だって。杉さんがジャケット着ていったから」
「しょうがねえな」
「早くつなげ」
 その男は上司のラフジャケットにロープを連結させた。
「はい。つなぎましたよ」
「お前ちゃんと結んだか」
「はい。杉さん。早く行かないともうきちゃいますよ」
「うるせいこの。年寄り酷使しやがって」
 四〇代前半のその上司がその男に背を向け対岸に向かっていった。
「あーさみぃ」
 ドライスーツを着用している上司は膝まで水が浸かった所で泳ぎ始めた。
「がんばれ。くそじじい」
 その男は近くにあった。地元では猫柳と呼ばれている木にロープをくくりつけ、川の方に目を向けると必死に泳
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