第一章 土くれのフーケ
幕間 破壊の杖
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聞いた時には、もう何もかも遅くての……彼女の行方はとんとわからんかった」
「なら、彼女とは何処で?」
疑問に、オスマン氏は士郎を悪戯めいた目で見た。
「なに、別に長年探して見つけたという話じゃなし。ちょうど秘書が辞めた頃にのう、秘書を探しに街の酒場に繰り出しに行った時に、妙に媚を売って来る良い女がおっての。これ幸いと尻を撫でてみるが、悲鳴一つ上げずにニッコリじゃ。こりゃわしの秘書になるため生まれてきた女じゃとの天啓を受けてのう。で、頃合を見て秘書にならないか言ったのじゃよ」
スケベそうな顔をして、ホッホッと顎ヒゲをしごきながら言うオスマン氏を、士郎は呆れた目で見る。
何故、秘書を探しに街の酒場に行ったのか? 何故、尻を撫でた際の反応で秘書を決めたのか? 等と言った疑問は後から後から湧いて出るが、士郎は一旦それを置いておき、まず伝えなければならない言葉を相手に伝えた。
「―――死んだほうがいいんじゃないか?」
士郎の言葉に対し、軽く咳をして仕切り直したオスマン氏は、士郎に向き直り真面目な顔をした。
「まっ、まあ。そう言う事じゃな」
オスマン氏の悪びれない姿に、士郎は顔を伏せると、片手を額に当て頭痛に耐えるような顔を浮かべた。伏せた顔の目を微かに光らせた士郎は、どうでもいいようなことを聞くようにオスマン氏に尋ねる。
「そう言えばオールド・オスマン、“破壊の杖”は貴族が持つ杖とは全く形が違うようですが、何か理由が?」
オスマン氏は何か考えるように目をつぶるった後、苦笑を漏らした。
「まあ、今回は何も報酬が無かったからの、礼の代わりじゃ」
オスマン氏は昔を思い出すように、天井を仰ぎ見ると語りだした。
「あれをわしにくれたのは、わしの命の恩人じゃ」
「命の恩人ですか?」
士郎は訝しげに聞くと、オスマン氏は、頷いてから話を続けた。
「もう三十年程前の頃じゃったか。森を散策していたわしはワイバーンに襲われての。そこを救ってくれたのが、あの“破壊の杖”の持ち主じゃ。彼はもう一本の“破壊の杖”で、ワイバーンを吹き飛ばすと、バッタリと倒れおった。怪我をしていてのう、手厚く看護したのじゃが、介護の甲斐なく……」
「死んだと?」
オスマン氏は頷いた。
「わしは彼が使った一本を彼の墓に埋め、もう一本を“破壊の杖”と名付け、宝物庫にしまいこんだ。恩人の形見としてな……」
目を細め、オスマン氏は遠い過去を見つめる。
「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』とな。彼はどこから来たのかのう?」
そこまで言うとオスマン氏は、士郎を鋭い目つきで睨みつけるようにして見た。
「ミスタ・シロウ
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