第百三十一話 二人の律儀者その五
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つまり織田家に傾いた中立だ、それが長政の今の決だった。
彼は浅井家をそれで動かすつもりだった、だが。
久政は違った、無明と杉谷の話を効いてこう言う。
「織田が朝倉を攻めるか」
「はい、近江に入られています」
「既に」
二人の闇の衣を着た僧侶達が彼の傍で囁く、部屋の中は妙に暗い。
その部屋の中にいる久政の目も異様だ、何処か血走っている。
その血走った目でだ、二人に告げた。
「ではじゃ」
「今からですか」
「兵を」
「兵を用意させよ」
こう告げたのだ。
「よいな」
「そして猿夜叉様にもですな」
「あの方にも」
「逆らうことは許さぬ」
我が子である今の主にもというのだ。
「断じてな」
「その心意気です、それでは」
「浅井家の為に」
二人の僧達は笑顔で頷く、しかしその目の奥に忠義はなかった。ただ底知れぬ闇の深さだけがあった。
越前に向かう織田家の青い軍勢に今黄色の軍勢も加わった、彼等はというと。
「信長殿、遅参申し訳ありません」
「おう竹千代来たか」
家康が信長に頭を下げ信長は笑顔で応える、共に今は馬上にある。
信長のところには織田家の青い軍勢がおり家康のところには徳川家の黄色い軍勢だ。その二つの軍勢が合流したのだ。
そのうえで家康はこう信長に話した。
「もう少し早く来たかったのですが」
「だからよい、来てくれただけで充分じゃ」
「左様ですか」
「よく来てくれた」
家康に感謝の言葉も述べる。
「御主の国も大変であろうに」
「武田家のことでありますか」
「あの家のことはよいのか」
「今は」
大丈夫だというのだ。
「武田家も敵が多いので」
「上杉なり北条なりか」
「北条とは今は手を結んでいますが」
それでもだった。
「かつては何度も刃を交えた仲です」
「お互いに油断の出来ぬ相手じゃな」
「それに加えて上杉です」
武田にとってはやはりこの家が最大の敵だった。越後にいるこの家である。
「あの家のことを考えますと」
「迂闊には動けぬな」
「だからです、今のところは」
あくまで今のところではあるがそれでもだった。
「我等も動けます。ですが」
「遅参のことか」
「途中橋が落ちていましたので」
「ふむ、何処の橋じゃ」
「尾張と三河の境目の辺りの川です」
その川の橋だというのだ。
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