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無明のささやき
第九章
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ているんだろう。」
「ええ、潟シダ建設です。土産にごっそり顧客を持って行くみたいですよ。あいつは飯島さんも理解してくれたと言ってました。なんせ、あいつの引き継いだお客は飯島さんの開拓した先ですからね。」
「全部が全部って訳じゃない。でも、力のあるディべロパーや不動産会社が多いのは確かだ。育ててもらった会社に弓引くことにはなるが、しょうがないよ。みんな生活がかかってるんだから。」
「実は、私も転職します。私も飯島さんから引き継いだお客さん、競争相手に持って行くことになると思います。申し訳ありません。」
「なんだ、お前もかよ、全くしょうがねえな。ところで、お前さんは、いったいどに行くんだ。」
「実は、石川と一緒です。あいつは名古屋本社、私は東京支社です。」
「えっ、お前も潟シダ建設かよ、ひでえ話だな。まあ、俺も辞めるつもりだから、どうでもいいけど。」
「しかし、全く、頭にきますよ。奥園部長も日経産業大ですよ。南常務は完璧に学閥を狙ってますよ。ふざけんじゃねえって言うの。東大、京大の学閥やっている奴等に聞かれたら、笑われちゃうって、日経産業大の学閥なんて。」
飯島は思わず吹き出した。淺川が続けた。
「ところで、石川から聞きましたよ。飯島さんが臼井さんに、南と竹内の周辺を探るように指示したって。ぜひ、私にも協力させて下さい。あいつら、名古屋で絶対に後ろめたいことやってますよ。何かわくわくしますね、こういう話は。」
「おいおい、冗談は止してくれよ。俺は会社を辞めるつもりだ。もうそんな余裕はない。全く、臼井の爺さんは余計なことを言いまわって、俺を担ぎ出そうという魂胆らしいが、俺はその手には乗らないよ。」
「えっ、やる気ないんですか、臼井さんの話、あれって嘘なんですか。そんなこと言わないで、どうせ辞めるなら、やりましょうよ。後に残る皆のためなんですから。ねえ、飯島さん。」
飯島は立ちあがりながら言った。
「おい、淺川。やるなら自分達でやれ。俺はもうごたごたはたくさんだ。静かにこの会社を去りたい。遣り残した仕事を片付けてから、辞表を出す。じゃあな。」
飯島は、歩き出した。淺川が尚も後ろから追い討ちをかけた。
「飯島さん、石倉が資材物流センターに行くって知っています?」
これには飯島も度肝を抜かれ思わず振り返った。
「おいおい、それは初耳だ。いったいどういうことだ。」
「私にも分かりません。とにかく、この会社、このところ変ですよ。あいつは、南の学閥のエリートじゃないですか。それが何でそうなるんです。」
飯島は少し考えてからこう答えた。
「さあ、よく分からんな。ただ、何かが起こりつつあることだけは確かだ。俺もその渦に巻き込まれている。」
「それって、どういう意味ですか。」
「まあ、いずれ機会があれば話すよ。それまで、俺にかまうな。
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