第八章
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中にないんだ。まず、高すぎる役員報酬を減らせって言いたいよ。」
「全くその通りです。それに役員の数も多過ぎる。半分でいいですよ。銀行員がぞろぞろだ。名古屋支店の業績悪化だって、坂本さんの責任じゃありませんよ。」
「そう言えば、今度、南常務の子飼いが名古屋の支店長になっただろう、どうしようも無い。お前も覚悟しておいた方がいい。」
「ええ、分かってます。今回の支店長人事で全て分かりました。南常務の日本産業大の学閥じゃあないですか。もうアホらしくって。それから、もし、今後、私が転職したとしてもご理解下さい。飯島さんのご恩には本当に感謝していますから。」
頭を垂れる石川に飯島は何度も頷いた。会社は、ほんの4〜5年前まで、右肩上がりで業績を伸ばしてきた。皆、会社や社長を信じて仕事に邁進してきたのだ。その社長が退いた途端に、全ての歯車が狂い出した。会社を心から信じてきた男が、また一人、会社を見限ろうとしている。
その日の午後、斎藤を一足先に帰し、飯島は名古屋支店で懐かしい時間を過ごした。かつて過ごした4年の月日が目まぐるしく蘇った。本社とは違う文化が育っていた。育てたのは坂本である。自由な雰囲気の中で本音が交錯する。
誰も知らないと思っていたのだが、飯島の失脚の原因を本社人事部との軋轢だと指摘する者までいる。情報は網の目を潜り抜け、何処までも浸透してゆくものなのだ。隠し通せると思っているのは、権力を絶対視する愚か者の勘違いに過ぎない。
その日の夕刻、飯島は、ようやく戻った支店長に形だけの挨拶を済ませ、支店裏の駐車場に向かった。飯島を駅まで送るために、石川の部下が車で待っているはずである。駐車場に入ってゆくと、飯島をブルーのライトバンが追い越していった。
車は、手際よく白枠の内側に止められた。そして、見覚えのある男が車から降りたった。てかてかのポマード頭、顔も油でも塗っているように光っている。小柄なその男は、にやにやしながら、飯島を見ている。竹内である。
飯島は、何故、竹内がここに来たのか不思議に思い、手をあげながら近寄った。先に声を掛けたのは竹内である。
「元気そうじゃないか。今日は坂本の葬式か。」
「ええ、坂本さんにはお世話になりましたから。」
と言った途端、顔が強張ってゆくのが分かった。飯島のその変化に気付いたのか竹内は苦笑い浮かべている。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。なにも、俺があいつを殺したわけじゃない。俺は会社の方針にただ忠実だっただけだ。嫌な役目だったけど、生きて行くために割り切った。会社が存続してゆくためには憎まれ役が必要なこともある。」
「それはそうでしょう。でも、竹内さんにはぴったりの役目だったじゃないですか。」
「そう、嫌味を言うなよ。しかし、あいつも思いきったことをしたもんだ。会社で自殺するとはな。」
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