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無明のささやき
第七章
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い、佐久間さん。俺には種がないんだ。それは、ずっと前からわかっていたことだ。」
佐久間が絶叫した。
「嘘言うんじゃない。」
佐久間の叫び声に驚いて、斎藤が入り口のドアから顔を覗かせた。飯島は手先を前後に振って、出て行くよう指示した。
「佐久間さん、聞いてくれ。襲われた時、和子は妊娠してた。」
「それみたことか、お前は、たった今、自分で言ったことも忘れたのか。お前には種がなかったんじゃないのか。語るに落ちたな、飯島。は、は、は、は、」
満足そうに高笑いだ。いつまでも笑っている。飯島はじっと待った。急に黙った。じろりと飯島を睨みすえ、怒鳴った。
「やっぱり、愛子は貴様の子供なんだろう。えっ、そうじゃないのか?」
「違う。愛子ちゃんは佐久間さん、あんたの子供だ。いいか、和子を妊娠させたのは俺じゃない。和子が勤めていた弁護士事務所の先生だ。あの日、和子が襲われた日に分かったことだ。今では離婚して飯島和子ではなく石原和子になっている。」
佐久間が笑い出した。狂ったように笑い転げた。
「ざまみろ、分かったか、これがお前に対する神様の罰なんだ。そうそう章子とお前の企みも、事前に神様が教えてくれたんだ。あの時、ばれていなければ、二人で俺が死ぬのを楽しみに待っていれば良かった。残念だったな。」
「おい、佐久間さん、何を言っているんだ。俺が何を企んだって言うんだ。」
相手が狂っていることを忘れ、飯島はまともに反応してしまった。佐久間は満足そうに笑みを浮かべ、飯島を睨み付けながら言い放った。
「章子とお前の悪巧みだ。その罰が当たったんだ。俺が死ねば入ってくると思っていた金を、お前は手にすることなど出来ない。そんな汚いことを考える奴だから、女房に裏切られ、捨てられた。和子さんは、お前の本質を見抜いていたんだ。ざま見ろ。」
佐久間の言葉を無視して飯島が叫んだ。
「佐久間さん、何度でも言うが、愛子ちゃんは俺の子供でもないし、あんた等の離婚前に章子さんとは会ったことさえない。いいか、俺はあんたの後輩なんだぜ、裏切るわけがない。」
一瞬、佐久間の動きが止まった。飯島を凝視している。飯島はこの期を逃さなかった。
「佐久間さん、和子は妊娠していた。もし襲われていたら、子供は流産していただろう。その子供は俺の子供じゃない。だけど、和子が生まれて始めて神様から授かった大切な子供なんだ。いいか、和子はもう俺の女房じゃない。二度と手を出すな。今度、何かあったら、本当にあんたを殺すぞ、分かったか。」
佐久間は尚も飯島を凝視している。そして、ふっとため息をつくと、踵を返しドアに向かった。飯島が叫んだ。
「おい、分かったのか。和子はもう俺の女房じゃない。二度と手をだすな。やるなら、俺をやれ。おい、分かったのか。」
佐久間は立ち止まり、振り向こうともせず言葉を発した。

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