第七章
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かりである。
飯島が所長室に駆けつけると、佐久間の薄くなった後頭部が目に入った。飯島の大きな机の前に椅子を置いて腰掛けている。振り返ろうともしない。斎藤はといえば、うな垂れて、ティッシュを丸めて鼻の穴に押し込んでいる。何があったかすぐに分かった。飯島は自分の席に着くと、口を開いた。
「おいおい、斎藤副所長。言ってなかったか?佐久間さんは、俺の先輩だってことを。」
「ええ、大学の先輩だって、」
「大学だけじゃない。日本拳法部の先輩でもある。俺もそうだが、佐久間さんも大学選手権のチャンピョンだった。」
斎藤は、ティッシュの位置を右手で直しながら、言った。
「チャンピョンだかなんだか知りませんが、片足引きずった老いぼれなんか殴る気にはなりませんよ。我慢してあげたんです。」
野太い声が響いた。かつて、佐久間が総務部長だった頃の自信に満ちた声だ。
「俺を、ここまで、猫の首根っこをつかむように連れてきた。さすがに、俺も切れたよ。」
飯島は、にやりととして言った。
「佐久間さん、ようやく昔の佐久間さんが蘇りましたね。以前のように率直に話しあおうじゃありませんか。」
佐久間は飯島の言葉を無視するように煙草に火を点けた。飯島は抽斗を開け、石倉から預かった書類から、斉藤の辞令を抜き取り、斎藤に手渡した。そして外に出るよう指示した。斎藤は歩きながら辞令に見入っている。そして大きな背中をわなわなと震わせた。
斎藤が振り返り、今にも泣き出しそうな顔で、懇願するような視線を飯島に向けた。飯島は、それには応えず、もう一度人差し指で外を指し示した。斎藤はうな垂れて、外に出ていった。
飯島と佐久間は互いに睨らみ合った。飯島は開口一番聞いた。
「一体、あの写真の女は誰なんです。」
「あれは、南の女房だ。俺の一物にむしゃぶりついてきやがった。」
「どうかな、どの写真を見ても意識なんてないみたいだった。睡眠薬でも飲ましたんでしょう。」
佐久間は、舌なめずりして、腰を前後に動かしながら答えた。
「南の女だと思うと興奮したよ。確かに薬は飲ませたが、女は俺の腰に動きを合わせてひーひー喜んでいた。」
どうやら、佐久間は、精神的にまともではない。飯島は核心に触れた。
「何故、私の女房まで襲ったんです。」
佐久間の顔がしだいに崩れていった。涙顔とも怒り顔ともとれる。立ちあがると、怒鳴り始めた。
「当たり前だろう、自分のやったことを考えてみろ。俺の女房と寝ておきながら、後輩面下げて、俺に擦り寄ってきやがって。先月だって家に来るように誘った。でも、お前はとうとう来なかった。愛子は、本当はお前の子なんだろう。そうじゃ、ないのか。」
佐久間は過去をさ迷っている。飯島は自分自身の怒りを押さえ込んだ。まともに喧嘩する相手ではない。少しだけ嘘を言うことにした。
「いいか
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