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無明のささやき
第七章
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それで、いつ?」
「一昨日の朝、本社の裏の車庫で首を吊っているのが発見されました。」
飯島は、言葉を失った。責任の一端は飯島にもある。しかし、坂本に対しては出来るだけのことはやった。坂本の奥さんの丸い顔がぼんやりと浮かんだ。
「もしもし、もしもし。」
飯島には、斎藤の呼ぶ声がしばらく聞こえていなかった。ようやく飯島が答えた。
「何だ。」
「それから、所長が、出社したら知らせろと言っていた佐久間が、今日、出て来ています。さっき電算室で佐藤室長と話していました。」
「えっ、佐久間が来ているって。分かった。いいか、佐久間を足止めしろ。これからすぐ行く。いいな。」
「所長、勘弁してくださいよ。もうすぐ5時だし、まして今日は子供と約束してるんです。」
「ふざけるな、てめえ、今がどんな時なのか分かっているのか。ほのぼの家族をやっている場合かよ。いいか、良く聞け。今月末、お前には辞令が交付されることになっている。その辞令を俺は石倉から預かってきているんだ。」
「えっ、そんな馬鹿な。冗談でしょう。」
飯島は黙っていた。どう反応するか見えすぎていたからだ。斎藤は緊張していることを秘密にしておくことなど出来ない。言葉にすぐ現れる。沈黙に耐えられず、斎藤が再び口を開いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、所長。じょ、じょ、冗談でしょう。そんなこと・・・。だって、石倉さんには、わ、わ、私は、かなり評価されているんですよ。その、じ、じ、辞令って内容はなんですか。ま、まさか、関東物流への転籍じゃないんでしょう?」
「いいか、もし、待っているなら、その辞令を見せてやるよ。」
「えっ、き、き、今日、見せてくれるのですか?あ、あ、後、20日以上もあるのに・・」
斎藤が今度は押し黙った。
「とにかく、すぐ行く。佐久間さんを確保しておくんだ。いいな。」
「はい。」
受話器から小さな沈んだ声が聞こえた。

 飯島が、資材物流センターに着いたのは、7時を少し過ぎた頃だ。通用門でコートの襟を立て足早に歩く男と擦れ違った。ふと気になって振り返ると、ずんぐりとしたその後姿は明らかに佐藤室長である。飯島は佐藤の名前を呼んだ。
 佐藤は数歩進んで立ち止まった。なかなか振り返らない。飯島が近付いてゆくと、ようやく方向を変え、視線を合わせた。目が座っている。飯島が先に声を掛けた。
「佐久間さんと会っていたそうですね。何を話していたんです。」
「奴は会社を去るそうだ。奴とは同期だから、別れを惜しんでいたのさ。」
「そうですか。」
「そうだよ、今生の別れになるかもしれないからな。それに何を話そうと、お前にとやかく言われる筋合いではない。」
と言うと、踵を返し、すたすたと歩き出した。飯島はただ呆然とその後姿を見送るしかなかった。いったい、佐藤は何を怒っているのか。混乱は増すば
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