暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第一部 剣技
第1話 剣の授業 (1)
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「こら──っ!」

 パンをほうばる俺の耳に、女の声が聞こえた。俺は不覚にも驚いてしまい、パンを落っことしてしまう。
 俺は女──というより少女か──に向けて、呆れた表情で言った。

「何か用? 結城明日奈(ゆうきあすな)さん」
「何でフルネーム……じゃなくて! 何食べてるのよ」

 俺は小さく溜め息を吐き、手に持っているものを彼女の目の前に突きつけて返答しておく。

「何って……パンじゃない? どう見ても」

「そんなの見ればわかるわよ」

「じゃあなんで聞くんだよ」

「まだお昼休みじゃないのにパン食べてるからでしょ。早弁禁止!」

 俺は教室の時計を見やり、現時点において1番重要なことを告げる。

「……早弁じゃない……」

「え?」

「正解は早パンだ」

「どうでもいいわよ、そんな事!」

「いやいやいやいや大事だから! これ弁当じゃないから!」

「今それ関係ないでしょう!?  ──もういいわ、貸しなさい!」

 結城明日奈(アスナ)は、俺のパンを取り上げ──手を滑らせ、床にパンを落とした。

「…………ああ………………」

 俺は床に崩れ落ちるように座り込み、情けない声で言った。

「俺の……俺の、パンが……」

「ご、ごめんなさい……」

 アスナは俯く。そして、その声は震えていた。

 ──可愛い。

 普段は校則に厳しい、生徒会副会長の明日奈だが、こういう時、女の子らしさが覗くのだ──いや、やはり《こういう時》に限ったものではないか。
 アスナは学園一の美人。榛色の瞳は大きく広がっていて、栗色の長い髪は常にサラリと下ろされている。趣味は料理で、正直何処の高級老舗レストランにも、アスナの料理ほど旨いモノは、なかなか存在しないと思う。
 その上、成績は常に学年トップ3に入るときた。一応俺も成績は割と結構悪くはない方ではあるのだか、とある実技教科ばかり練習しているため、彼女には到底及んでいないというか──。

「あーあ……どうするかなあ。今日確か《あの授業》があったはずだよな。あれを昼飯抜きはきついよなあ……」

 まあ、昼休みに買い直せば良いだけの話ではある。

「ご、ごめ……」

「誰かさんのせいで今学期の成績は終わったかな〜……」

 調子良くからかってはみたが、流石に言い過ぎた。
 アスナの気持ちに気が付くのが、遅すぎた。

「こ、こんな時間に……パンなんて、食べてる……のが、いけないんで、しょ……」

「あ、ああそうだ、俺が悪かった」

「キッ、キリト君のっ、バ、バカ──!」

「痛ッた!!」

 アスナは俺に平手打ちを喰らわせると、涙を拭いながら、今までいた教室からものすごいスピードで飛び出した。
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