第一部 剣技
第1話 剣の授業 (1)
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「こら──っ!」
パンをほうばる俺の耳に、女の声が聞こえた。俺は不覚にも驚いてしまい、パンを落っことしてしまう。
俺は女──というより少女か──に向けて、呆れた表情で言った。
「何か用? 結城明日奈さん」
「何でフルネーム……じゃなくて! 何食べてるのよ」
俺は小さく溜め息を吐き、手に持っているものを彼女の目の前に突きつけて返答しておく。
「何って……パンじゃない? どう見ても」
「そんなの見ればわかるわよ」
「じゃあなんで聞くんだよ」
「まだお昼休みじゃないのにパン食べてるからでしょ。早弁禁止!」
俺は教室の時計を見やり、現時点において1番重要なことを告げる。
「……早弁じゃない……」
「え?」
「正解は早パンだ」
「どうでもいいわよ、そんな事!」
「いやいやいやいや大事だから! これ弁当じゃないから!」
「今それ関係ないでしょう!? ──もういいわ、貸しなさい!」
結城明日奈は、俺のパンを取り上げ──手を滑らせ、床にパンを落とした。
「…………ああ………………」
俺は床に崩れ落ちるように座り込み、情けない声で言った。
「俺の……俺の、パンが……」
「ご、ごめんなさい……」
アスナは俯く。そして、その声は震えていた。
──可愛い。
普段は校則に厳しい、生徒会副会長の明日奈だが、こういう時、女の子らしさが覗くのだ──いや、やはり《こういう時》に限ったものではないか。
アスナは学園一の美人。榛色の瞳は大きく広がっていて、栗色の長い髪は常にサラリと下ろされている。趣味は料理で、正直何処の高級老舗レストランにも、アスナの料理ほど旨いモノは、なかなか存在しないと思う。
その上、成績は常に学年トップ3に入るときた。一応俺も成績は割と結構悪くはない方ではあるのだか、とある実技教科ばかり練習しているため、彼女には到底及んでいないというか──。
「あーあ……どうするかなあ。今日確か《あの授業》があったはずだよな。あれを昼飯抜きはきついよなあ……」
まあ、昼休みに買い直せば良いだけの話ではある。
「ご、ごめ……」
「誰かさんのせいで今学期の成績は終わったかな〜……」
調子良くからかってはみたが、流石に言い過ぎた。
アスナの気持ちに気が付くのが、遅すぎた。
「こ、こんな時間に……パンなんて、食べてる……のが、いけないんで、しょ……」
「あ、ああそうだ、俺が悪かった」
「キッ、キリト君のっ、バ、バカ──!」
「痛ッた!!」
アスナは俺に平手打ちを喰らわせると、涙を拭いながら、今までいた教室からものすごいスピードで飛び出した。
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ