崑崙の章
第6話 「貴様らに名乗る名前はない!」
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い……そう思ったのじゃ。だから……」
「ねえ、桔梗……あなたは彼の真名を知っているの?」
黄忠さんが、厳顔さんに尋ねる。
厳顔さんはしばらく黙った後、知っている、と答えた。
「互いに呼ぶことも許されたが……放逐するときに返した。そうか……やはりわしの身から出た錆じゃったんじゃな」
厳顔さんは自嘲したように呟く。
コリッ……と頬を掻いて、俺は小さく溜息を吐いた。
「私……俺の独り言なんだけど」
そう言って後ろを向く。
「あいつ、厳顔さんに母親か姉を見ていたんじゃないかな?」
その言葉に、ハッと息を呑む音が聞こえた。
「だから新しく来た妹に嫉妬した……だけど、その母親は妹を選んだ。自分は捨てられた……だから――」
「………………」
そこまで言って口を噤む。
黄忠さんも何も言わなかった。
ただ――
「わしは……わしは、ほんに、ほんに愚か者じゃ……」
ただ、厳顔さんのすすり泣く、泣き声だけが。
日が昇り、長江の美しい水面に照らされるその場所に、微かに響いていた。
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