崑崙の章
第6話 「貴様らに名乗る名前はない!」
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男が厳顔を両腕に抱えて、抱き上げる。
厳顔は、状況も忘れて思わず顔を赤くして慌てた。
「じゃあな!」
男は、厳顔を抱えた状態で屈むと、その足の筋肉が異様に膨れ上がり、バンっと音がする。
その状態で船の縁を蹴り上げると、十丈(約三十三m)はあろうかという距離を飛び越え、岸へと着地した。
「なっ……化け物かっ!?」
沈弥が驚いて着地した対岸を見る。
と――
ジャーン、ジャーン、ジャーン!
不意に銅鑼が鳴る音と共に、両岸に武装した集団が矢を構えて並びだす。
それと同時に、籠で隠していた炭火から着火した松明が、ずらりと並べられていく。
「なっ……なっ……なっ……」
沈弥を含めて状況が飲み込めずに、右往左往している錦帆賊が周囲を見回して慌てている間に、松明が並べられ、兵がそれぞれ矢を番える。
気付けば、錦帆賊は完全に包囲されていた。
「な、なんだこいつらは! いったいどこからこんな兵が現れたんだ!」
沈弥の叫び。
それも無理はない。
状況的に完全に厳顔一人なのを確認して姿を現したのだ。
灯りももたず、一体どこから沸いて出たのか。
「降伏なさい」
慌てる沈弥に、兵の間から一人の女が現れる。
その女は、弓を携えながらも、どこか清楚な姿だった。
「我が名は黄忠……元は夷陵の太守にて、今は白帝城の太守を一時的に預かるものです。錦帆賊、並びにその頭目に再度告げます。降伏しなさい!」
女……黄忠は静かに、だが威厳のある声でそう叫んだ。
「こう……ちゅう、だと? 確かに……厳顔のところで黄忠と呼ばれた女を見たことがある。だが……何故だ! やつは、やつは劉表から暇をもらってすでにこの国を離れたはずだ!」
「お前は天に見放されたのじゃよ、沈弥」
対岸にいる厳顔がそう答える。
男の腕から降りて、その腕には轟天砲が構えられている。
「紫苑が、偶然この白帝城に来ておらなんだら、わしはお前の雇った黄巾に殺されておったかもしれん。小僧がおらなんだら、わしはあの宿で血を流しすぎて死んでおったかもしれん。すべては天の意思じゃ」
「天……天だと!? 天が俺を見放しただと!?」
「お前が成すことを、天はお見通しじゃったのじゃよ……なにしろ、この小僧こそ」
厳顔は、隣にいる黒ずくめの男の背中をバン、と叩いた。
「この男こそ、天の御遣いと呼ばれた男なのじゃからな」
「―――――っ!?」
沈弥は悲鳴にもならない声を上げて、がくっと膝を折った。
こうして錦帆賊の残党は、大した抵抗も出来ずに全員が捕縛されたのである。
―― 盾二 side ――
錦帆賊を全員捕らえ、沈弥とい
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