崑崙の章
第6話 「貴様らに名乗る名前はない!」
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錦帆賊は、オオオオオッ、と歓声を上げる。
厳顔はその様子に沈んだ顔で沈弥を見る。
「沈弥……」
「なんだ? 命乞いか? 泣き叫んで命乞いするってのか? それなら助けてやらんでもないぜ?」
「惜しい……惜しいの……その才覚。世に出れば名のある知将となれたもしれん……わしは愚かなことをしたもんじゃ。おぬしに道を誤らせた……」
「………………なん、だよ」
沈弥は、厳顔の言葉に先程までの興奮が、一気に冷めていくのを感じた。
「なんでそんなこというんだ……なんでそんな悲しい顔をするんだ……だったらなんで俺でなく、あの女を選んだんだ……」
沈弥の顔が歪んだ顔から、能面のような、感情のない顔へと変わっていく。
「俺は……あんたの……そんな顔をみたくてやったんじゃねぇ……俺が見たかったのは……見たかったのは……」
沈弥の歪んで濁った目が、どす黒く、暗い海の底のような目に変わっていく。
「もういい……もう終わらせる……もう、どうでも、いい……」
沈弥は、再度右手を上げる。
その合図に、周辺の錦帆賊は、弓を引き絞り、矢を番えた。
「じゃあな。厳顔……もう、消えてくれ」
呟くような沈弥の声。
厳顔は、悲しい目のまま沈弥を見た。
「……っ!」
その視線に堪えられなくなった沈弥が、厳顔に背を見せて右手を下ろす。
厳顔に大量の矢が降り注ぐ音が聞こえた。
だが――
「はい、そこまで」
「!?」
ふと、男の声と共に、金属が跳ね返るような音が連続で響く。
沈弥が振り向くと……そこには。
「予定じゃ船の真ん中じゃなかったんですか? 穂先から動かないから、正直焦りましたよ」
一人の男が、ぼんやりと青白く光りに包まれたまま、厳顔を庇って立っていた。
放たれた矢は、実に二百本以上。
その男を包む光は、その背後にいる厳顔をも包みこみ、放たれた矢の全てを弾き返していた。
「なっ……!?」
周辺の錦帆賊も、その異様な光景に目を奪われる。
全ての矢が弾かれてしばらくすると、その青白い光は消え、黒ずくめに身を包んだ一人の男が沈弥の目の前にいた。
「自分の行いも省みず、他者からの恩恵のみを欲して逆恨みをすること。人、それを『甘え』という……」
「な、何もんだ……!?」
「貴様らに名乗る名前はない!」
黒ずくめの姿で腕を組んだ男は、胸をそらしてそう言ってのけた。
「うん……一回言ってみたかったんだ、これ」
「て、てめえ!」
沈弥は自らの感情を『甘え』と言い切った男に逆上して、剣を抜く。
「お前らの相手は俺じゃないよ……行きますよ、厳顔さん!」
「こ、これ! 貴様、またわしを……」
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