崑崙の章
第6話 「貴様らに名乗る名前はない!」
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ら、波立たせるような怒りの声に、空気が震える。
「………………」
厳顔が闇夜の長江を睨みつけ、待つことしばし。
上流の岩手に身を隠していた船が、明かりを灯してゆっくりと姿を現す。
その数、五。
「ふん……やはりの」
厳顔は、ニヤリと顔を歪ませながら仁王立つ。
その姿は、女ながらにも仏法を守護する帝釈天のような威厳のある佇まいだった。
厳顔が穂先で構えながら待つ船に、四隻の船が速度を上げながら周囲を囲む。
厳顔から見えるその船には、それぞれ数十人に及ぶ武器を持った江賊たちが、ニヤニヤと顔を歪めながら厳顔を見ている。
そしてゆっくりと取り囲まれた船の穂先に一隻の船が近づく。
その船の穂先には一人の男がいた。
厳顔が穂先の灯火に照らされた男の顔を見る。
「む……貴様!?」
「よう……久しぶりじゃねぇか、厳顔太守殿」
男――沈弥は、顔を歪めながら口元を引き上げる。
まるで邪悪な獣のようなその風貌に、厳顔が顔を顰めた。
「貴様が江賊に成り下がっておったとは……道理でわしを指名するわけじゃな」
「ほう……少しは利巧になったようじゃねぇか。自分が嵌められたと気付いたか?」
厳顔の吐き捨てるような言葉に、沈弥が歪んだ顔を更に歪ませて喜ぶ。
「ふん……貴様を放逐したことの恨みか? それとも放逐した際に棒打ちされたことかの? どの道、貴様自身の犯した罪じゃ。わしは公正に法に照らし合わせて処罰したに過ぎん」
「ククク……まあ、その恨みもあったなぁ。だが、そんなことより……テメエに恨みがあるのは、そんなことじゃねぇ! あの暴力クソ女をお前が直弟子にして自分の後継者のように振舞わせたことだ!」
沈弥の歪んだ顔が、怒りの形相に変わる。
厳顔は、眉をよせて沈弥を睨んだ。
「暴力クソ女……おお、もしかそれは焔耶――魏延のことかの?」
「あたりめえだ! どこぞの山奥から来たような脳筋女……あんな力しか能のないようなあの女を何故テメエは贔屓した!」
「贔屓……ふむ。確かにあれは馬鹿じゃが、贔屓と呼ばれるようなことなどしておらんぞ。寧ろ、馬鹿なので鍛えている、と言ったほうが良いか」
「なら……なら、なんでテメエの武器なんか下賜しやがった! あれは俺がもらうはずだったものだ!」
「……? お主……」
沈弥の叫びに、厳顔の顔色が変わっていく。
沈弥は、ハッとして口をつぐんだ。
「そうか……思い出したぞ。確かに酒の席でお主にあれを……鈍砕骨をやると言ったことがあったのう。わしは戯れ程度のことですっかり忘れておったが……それほどお主が思っておったとは、な」
「う、うるせえ! もうそ
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