第二十九話「……インストール♪ アンインストール♪ ――え、だめこれ?」
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ないし共有することもできない。だけど、それがすごく苦しく辛いというのは理解できた。
霊魂の少年の一人が微笑みながら何かを囁く。
俺には読唇術なんて使えないから彼が何を言っているのかわからないが、その雰囲気からなんとなく慰めの言葉なのだと分かった。
隣にいた朱乃さんが通訳してくれる。
「……『自分たちのことはいいから、君だけでも幸せに生きてくれ』。彼らはそう言っています」
「……っ」
朱乃さんの言葉に泣き崩れる木場。
あいつは今この時、重い十字架から解放されて救われたのだろう。
魂だけの少年少女が胸の前で手を組み、口をリズミカルにパクパクさせ始めた。
歌ってる?
「聖歌……」
ぽつりとアーシアが呟いた。
彼らは聖歌を歌っている……。木場も涙を流しながら同じく手を組み、聖歌を歌う。
俺たち悪魔にとって聖歌は天を象徴する歌であり、歌うのはもちろん聞くだけでもダメージを受ける。
しかし、彼らの声なき歌には、心をやさしく包み込んでくれる温かな何かに満ちていた。
自然と少年少女たちと木場の顔が笑顔になる。それは、まるで幼い子供が浮かべるような純粋な笑みだった。
アーシアも手を組み聖歌を口ずさむ。俺もいつの間にか彼らの歌に同調していた。
――っ!
彼らの魂が青白い光を放つ。それらは木場を中心に光が包んでいく。
『僕らは一人ではダメだった』
『私たちは聖剣を操る因子が足りなかった。けど――』
『みんながいればだいじょうぶ。ぼくらはいつもいっしょ』
俺にも彼らの声が聞こえる……。
『聖剣を受け入れるんだ』
『怖くなんてない』
『たとえ神がいなくても』
『たとえ神が見ていなくても』
『ぼくらはずっといっしょだよ』
「ああ、そうだね……僕らはずっと、一緒だ」
彼らの魂がラセンを描きながら天へと上り、一つの大きな光の塊となって木場のもとへと降りてくる。
やさしい光が木場を包むなか、ドライグの声が聞こえた。
なんだよ、こんな感動的な場面に。
【奴は至った】
至った?
【ああ。神器は所有者の思いを糧に真価を発揮する。だが、それとは別に所有者の思いが、願いが、世界の流転を凌駕する劇的な変化を生じたとき、神器は至る】
だから何にだよ。
【――禁手だ】
ドライグの面白いものを見た時のような抑えた笑い声が、やけに耳に残った。
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