崑崙の章
第5話 「黄忠さん、お願いがあります」
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「ろくな将もいないのに水軍を出せるわけがないだろう……厳顔がいたとて、奴は劉表の配下でもない。そして奴が自軍の援軍を呼べないうちに取引を強行してしまえば……奴のことだ。自分ひとりで俺達を倒そうと単身乗り込んでくるだろう。ならばそこで……」
「厳顔を太守もろともに……そういうわけですな」
「ああ。そして俺達は長江からはおさらばよ……劉表は他の太守を巻き込んで殺したということで、名声も周辺諸侯の信頼も失うだろう。厳顔も殺せて一挙両得……いや、身代金もせしめれば一石三鳥というところか?」
沈弥の薄い笑いに、周囲の四人は同意するように頷く。
「ククク……やっと殺せるぜ、厳顔。てめえだけは……」
暗く濁った眼で虚空を睨みつけながら、沈弥が酒をあおる。
夜はなお暗く、闇を深めていた。
―― 盾二 side 白帝城 城内 ――
「身代金は二千万銭、受け渡しは三日後の夜、場所は長江の上にて引渡し。なお、船には厳顔一人で持ってこられたし。本人以外のものが船に同乗した場合、太守の命は亡きものとする……以上が今朝届けられた相手の要求です」
「………………」
白帝城の王座の間。
本来ならば太守が中央に座る場である。
だが、その太守は現在江賊に連れ去られており、無人の状態で鎮座していた。
厳顔さん、そして黄忠さんが白帝城内のこの場所に招かれ、会合の席に着いている。
内容は、当然の如く太守の件についてだ。
俺は厳顔さんの部下という形で入場した。
ここにいない華佗には、宿で璃々ちゃんを任せている。
「……お主の予想は外れたようじゃな」
厳顔さんがこちらを睨んでくるが……まあ、そのとおりだった。
思っていたより向こうは性急だったらしい。
「可能性は薄いと思ったんですが……まさか厳顔さん狙いだとは」
俺は言い訳めいたことで頭を掻く。
こうなると、ただの営利目的の誘拐じゃなさそうだ。
取引相手を厳顔さんに絞る辺り、どう見ても厳顔さん目的なのが透けて見える。
ただの身代金目的なら、武将としてこの周辺で良く知られる厳顔さんを名指ししてくることなんてないだろう。
怨恨の線……かな、まず間違いなさそうだ。
そうすると全部仕組まれていたことになるけど……ほんとにこれ、誘拐か?
「わしが身代金をもってこいと言うなら、わしが持っていこう。当然、金など渡さぬ。その場で太守を助け出し、江賊どもを討ち果たしてご覧に入れよう!」
厳顔さんは鼻息荒くそう言う。
うん、まあ……予想はしていたよ。
「いや、しかし……私の一存ではなんとも」
文官が困った顔で汗を拭う。
そうだよね……決められないよなぁ。
責任問題だ
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