崑崙の章
第5話 「黄忠さん、お願いがあります」
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い気分で酒を飲んでおったというのに……」
太守は囚われているにも拘らず、酒に酔った顔で文句を言う。
沈弥はその姿に侮蔑を込めた目で冷ややかに見ると、酒を一気にあおった。
「ご機嫌のようだな、太守どの。主君を裏切って賄賂で狂言誘拐……後ろめたさはないのかね?」
「フン! 私を安い俸給でこき使う劉表など、どうでもいいわい。これで身代金の一部を懐に納めたら、こっちからあんな太守など辞めてやるわ。だからこそお主等の甘言にも乗ったんじゃしのう」
「ククク……もっとも、もっとも。あんたは劉表が憎い。俺は厳顔が憎い。お互いの利害は一致したわけだ……それで、身代金を奪ったらあんたを引き渡して、罪は俺達。あんたは攫われてしまったことを理由に、暇をいただくわけだ……身代金の一部をその懐に入れてな」
「所詮、私は劉表が戻れば一文官に逆戻りよ……太守などと言われてはいるが、態のいい守り役にすぎんわ。劉表は、白帝城の金も動かす権利すら私に与えてはくれなかった……やつが戻れば、黄巾で功を上げた他のやつが正式な太守になる。私はそれが我慢ならん!」
酒に酔った顔を更に高潮させ、太守が叫ぶ。
その様子を冷めた目で見つつも、沈弥は口元に笑みを浮かべた。
「なるほど、なるほど。その恨み、金を奪い取ることで存分に晴らすが良いさ……ところで、白帝城が出せそうな身代金の額はわかるかい?」
「む……そうじゃのう。白帝城の蔵にあるのは、三千万弱……糧食は六千石といったところじゃろうか?」
太守の男が、酔った頭で必死に思い出そうとする。
兵士の給与が月千銭、太守といえども三千銭程度と考えれば、街の財源の中身としては貧乏といえるだろう。
「フン……大してねえな。黄巾討伐にかき集められて残っていねぇってことか」
「兵も警備兵が四千程度じゃからな。ほとんど吸い上げられたわい」
「となると……身代金はニ千万というところか。約束どおり、身代金の半分はあんたのもんだ」
「おお! そうかそうか! では楽しみにしておるぞ!」
「ああ……ゆっくり酒を飲んで楽しんでいてくれ」
沈弥がそう言って、後ろの配下の男に出て行かせるように目配せをする。
男は太守を案内して、部屋を出て行った。
「……ククク。おめでたい奴だぜ。本当に自分に分け前があると思っていやがる」
「ではやはり……?」
配下の男が尋ねると、沈弥は酒をあおった。
「当然、奴には取引現場で死んでもらうさ……ふむ。なら取引相手は厳顔を指名するか」
「厳顔を……ですか? 少し危険では……」
「こちらの兵力は三百前後。向こうが水軍を出してきたら壊滅しかねませんが……」
沈弥の言葉に異議を唱える周囲。
だが、沈弥は口元に笑みを浮かべたまま周囲を見回す。
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