第五章
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てことをしてくれたんだ。まさかあんなことをするなんて信じられん。何故だ、何故あんなことをした。」
「会長、あんたに恨みはない。あんたの娘にもだ。しかし、南だけは許せん。南に対する恨みを晴らすためだ。」
「馬鹿な、そんな馬鹿な。お前がそんなことをするするなんて。娘には何の罪も無いんだぞ。それなのに、何て酷いことを。」
西野会長の涙声を聞いて佐久間は押し黙った。しかし、次ぎの瞬間、会長の怒声が響いた。
「あんなことをするなんて、お前を見損なったぞ。1億だと。とんでもない。5千万だ。いいか、5千万で十分だ。それ以上一銭たりとも払わんぞ。いいな、佐久間。」
「は、はい。」
思わず返事をしてしまったのは、恐らく長年の習性だろう。西野会長に逆らったことなど一度としてなかったからだ。現実の佐久間から苦笑いが漏れた。
今度は受話器の向こうからがらがら声が響く。元資材物流センター長の竹内である。汗を拭き拭き喋っているのだろう。
「兎に角、佐久間さん。俺も同期の義理もあるし、一度は付き合った。それにお互い2千5百万円もの大金を手に入れた。だから勘弁してくれよ。」
「何が大金だ、馬鹿言うな。本来貰える退職金より少ないんだぞ。それに、あんなインチキ会社を作って上手く行くとでも思っているのか。それより、竹内、手伝えばそれなりの報酬はやる。考え直せ。」
「佐久間さんよ、インチキ会社はないぜ。地場産業として、それなりにやって行く目途がついたんだ。もう危ない橋は渡りたくない。兎に角、俺のことは諦めてくれ。正一を紹介しただろう。あいつだったら、金さえ払えば何でもやる。」
「あいつか・・・正一は、何をしでかすか分からない。口も軽い。信用が出来ない。」
「まあ、そう言うなよ。あいつはそんな口の軽い男じゃないって。そうそう、話は違うが、この間、偶然、章子さんを見かけたよ。渋谷で男と腕を組んで歩いていた。あの様子だと一発やった後ってかんじだったな。尻にまだ何かが挟まってるって感じで歩ってた。」
竹内の下卑た笑いのなかに、何か含むものがあることを咄嗟に感じ取った。息せき切って聞いた。
「最近付き合いだしたあのデパートの禿げ男じゃないのか。」
「いや、違う。あんたの知った顔だ。」
佐久間はごくりと生唾を飲み込んだ。そいつが捜しもとめた男かもしれないと思ったのだ。
狂気は妄想を生む。確たる証拠があるわけではなかった。保険金のことが引きがねとなって、佐久間は章子を裏で操る男を思い描くようになっていた。妄想は狂気を加速させ、狂気は妄想をよりリアルな現実として捉えさせる。
妄想が一人歩きし始めた。章子はその男にそそのかされ、佐久間に保険を掛けた。それだけではない。結婚以前から関係を持っていて、しかも愛子の本当の父親でもある。
妄想は膨らむばかりで、それを打ち消そ
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