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無明のささやき
第五章
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奈落の底に追い落とした男達。幻影を払いのけようと拳を振るったが、その憎憎しげな顔は佐久間を嘲笑っているだけだ。

 その中の一人の顔が面前に現れた。薄笑いを浮かべながら石倉が言い放った。
「あなたのやったことは、業務上横領ですよ。」
佐久間は居並ぶ役員を見回した。そして石倉を睨みつけると、それまでの主張を繰返した。
「何度も言っているように、それは西野会長の同意を得ている。用地買収でヤクザ絡んできた。その解決に或る議員が動いてくれた。500万円はその謝礼だ。お前にとやかく言われる筋合いではない。」
石倉が答えた。
「佐久間総務部長。使途不明金はこれだけじゃない。あなたが総務部長になってから一億は下らない。どうなっているんです。どう説明するつもりなんです。」
佐久間が叫んだ。
「この会社では会長の許可がなければ何も出来なかったことは誰だって知っているはずだ。私の一存で会社の金を流用するなんて不可能だ。」
「いいや。あなたの立場であれば、金の操作など簡単に出来たはずです。会長に知られずにね。」
 突然、ドシンというテーブルを叩く、くぐもった音が会議室に響いた。佐久間が驚いて顔を向けると南常務が睨んでいた。そしてその薄い唇が開かれた。
「いい加減にしろ、佐久間。会長に一億円の使途不明金について聞いたのは私だ。ここにそのリストがある。ここには国会議員への謝礼、300万円と書かれている。差額の200万はどこにいったんだ、えっー。それに会長は全て君に任していたから、詳しくは知らんと言っているんだ。」
「馬鹿な、300万だなんて嘘だ。確かに500万を渡している。」
「何だと、君は会長が嘘をついているとでも言うのか。」
 佐久間は唇を噛み、押し黙った。確かに最初の約束は300万だった。しかし、話がまとまると、その政治家秘書は500万に値段を吊り上げた。そのことは社長に伝えたが、もしかしたら失念しているのかもしれない。
 しかし、何をどう申し開こうと、全ては茶番なのである。南の嘘を証明することなど不可能だ。役員達を納得させること、そして佐久間を追い落とすこと、この二つのためのストーリ作りなのだから。佐久間は怒りに震え、南、石倉を交互に睨みつけた。 
 グラスをドアに叩きつけ佐久間が叫んだ。この度は、現実の佐久間が叫んだのだ。
「ふざけるな、この野郎。ぶっ殺してやる。石倉。いずれ、必ずぶっ殺してやるぞ。」
ガラスが砕ける音が響いた。幻影は消えていた。ウイスキーの瓶を手繰り寄せ、口飲みした。佐久間は再び幻影を手繰り寄せた。

 受話器の向こうから南の声が途切れ、しばらくして意外な声が響いた。西野会長である。懐かしさと同時に疚しさが心に渦巻いた。その声は佐久間の狂気を一瞬遠ざけ、僅かに残された理性を呼び覚ました。
「おい、佐久間、貴様は何
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