第五章
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三つは最近加入している。金額は、全部で3億。俺が死ぬとでも思っているのか。」
章子が俯いて、蚊の泣くような声で答えた。
「だって、あなたが死んだら、食べていけないわ。肝臓ガンかもしれないって言ってたじゃない。不安になって、つい…」
佐久間が怒鳴った。
「肝臓ガンの疑いがあると言っただけだ。その後の検査で白とでた。俺は死なん。すぐに解約しろ。お前は、俺の給料がいくらになったか知っているのか。」
章子は視線を上げ、不服そうに唇を尖らせて答えた。
「今まで一度だって給与明細なんて見せてもらってないわ。」
「いいか、よく聞け、今までの半分以下だ。住宅ローンだって払っていけない。食うのが精一杯なんだ。保険料がいくらか知らんが、金もないのにどうやって払ってゆくつもりなんだ。」
「この間、面接をうけたの。働くことにしたわ。駅前の会計事務所よ。」
佐久間の背筋に冷やりとする感覚が走った。何故素直に解約すると言わないのか。働いてでも保険料を払い続けると言うのか。妻の横顔を見詰めた。妻は視線を落とし、唇を噛んで、今をやり過ごそうとしている。そこには見たこともない他人が潜んでいた。
確かに体の調子は良くない。実を言えば精密検査もまだ受けてはいなかった。しかし、健康診断も受けずに佐久間が保険に加入出来たということは、保険の外交員をしていた章子の母親が一枚噛んでいるに違いなかった。佐久間は、和歌山の保険金殺人を思い出し、ぞっとした。
暗い疑念が佐久間の胸に渦巻いた。資材物流センターへの左遷以来、焦燥が体全体を包んでいる。そこに新たに妻への不信という要素が加わったのだ。佐久間は体を震わせ、思わず叫んだ。
「とにかく、解約するんだ。」
同時に平手が飛んだ。ふくよかな頬の感触が掌に残った。その感覚が佐久間の獣性に火をつけた。
別の場面が浮かんだ。電話口から西野会長の声が響いている。幻影を眺める佐久間は思わず目を細めてその声を聞いた。
「済まん、佐久間。奴等はお前を首にすると言い張ったが、何とか説得した。資材物流センターに行けるようにした。そこで、しばらく辛抱しろ。俺が何とかする。いつか奴等の鼻をあかしてやる。それまで頑張れ。」
佐久間は思わず涙ぐんだ。会長も涙声で続けた
「佐久間よ。俺だってこのまま終わるつもりはない。息子は銀行の言いなりだ。あいつを銀行に就職させたのは失敗だった。他人の飯を食わせて勉強させるつもりだったが、あいつは銀行の論理を学んだだけだ。企業は人なんだ。それが分かっていない。いずれにせよ、俺は必ず返り咲いてみせる。」
「ええ、期待しております。本当に頑張って下さい。今の私には何もお手伝い出来ませんが、心から祈っております。」
その時、佐久間の脳裏に奴等の顔が浮かんだ。会長の息子、西野社長、南常務、石倉だ。会長と自分を
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