第四章
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在になっている。佐藤の薄い唇が動いた。
「随分と険しい顔をしてるね。天が落ちてきそうなのか?」
いつもの惚けた言葉に、飯島は思わず相好を崩して答えた。
「天などぶっ壊れてしまえばいい、なんて思うことがあります。本当に自分が情け無いですよ。」
「全くだ。その前に奴等に仕返しする機会さえ頂ければ、どうなっても構わない。たとえ天が落ちて来ようとね。」
その思いは飯島も同感であったが、あえて話題を変えた。
「システムの故障は直ったみたいですね。」
「ああ、在庫管理システムは、自分の子供みたいなものだから、何処が悪いかなんて、すぐに分かる。それより、坂本の就職、何とかならないのか。だいぶ落ち込んでいたよ。」
飯島は押し黙った。佐藤は飯島に一瞥を与え、
「まあ、年も年だし、奴みたいに高望みしていたんじゃ、どうしようもないな。俺の方は、子供も巣立ったし何とかなる。兎に角、佐藤を含め他の奴のことを頼むよ。」
と言うと、頭を下げた。
「ええ、分かりました。でも、中高年にとって状況は厳しくなるばかりです。世の中景気が良いなんていうけど、どこが良いのかって言いたくなります。」
佐藤は大きく頷きながら言った。
「そうだな、再就職したからって、中途採用者には厳しい現実が待ち構えている。世間は冷たいからな。去るも地獄、残るも地獄ってわけだ。」
二人は視線を合わさず互いに頷き合った。
章子から連絡があったのは、実家に電話してから一週間後のことである。しっとりとした声は飯島の心を動揺させた。昔を取り戻せず、飯島の言葉はうわずった。しかし何とか会う約束だけは取り付けた。
受話器を置くと、言い知れぬ不安とともに淡い期待がゆっくりと心の深みから浮き上がってくる。章子の面影が浮かんでは消えた。その薄茶色の瞳で見つめられると、誰もが視線を絡めとられてしまう。抜けるように白い肌を思いだし、ぶるっと体を震わせた。
章子の言葉が、脳裏でこだまする。「三日後の金曜」、「六本木のバー」、「よく三人で行った店」。結局あいつ、南が付きまとう。飯島はため息をついた。
その当日、飯島は早引きした。6時の待ち合わせに間に合わないからだ。飯島はひさびさの活気在る都会の雰囲気に心時めかせた。六本木の街を散策しながら昔通ったバーに近付いて行った。そしてそのバーは昔の名前のまま、そこにあった。
店に通じる螺旋状の階段を降り、重厚なドアを開けると、カウンターに肘を着く章子のけだるそうな姿を認めた。昔と変わっていない、そう思った。
章子は飯島をちらりと一瞥し、グラスを置くと、ぎこちない表情で近着く飯島に妖艶な笑みを浮かべた。すらりと長く伸びた剥き出しの脚が、飯島の目に眩しく映った。章子は少し酔っているらしい。飯島が隣に腰を下すと、章子はすかさず口を開いた。
「しばらく、飯
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