第四章
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島や宮木はまだ40代初めですよ。まして今時この月給に、更に20万円上乗せする企業なんて、日本中捜したってありませんって。」
その時、デスクの電話が鳴った。飯島はほっとして立ち上がり受話器を取った。坂本を振り返ると、とぼとぼと部屋を出て行こうとしている。飯島は受話器を押さえ、怒鳴った。
「坂本さん。それじゃ、この就職口、誰かに譲ってもいいんですね?」
坂本は、返事もしないで、ドアを出ていこうとしていた。手には奨学金の案内を握っている。飯島は溜息をついて電話に出た。
「もしもし、飯島です。」
「ああ、飯島君。石倉です。」
石倉も飯島を君付けで呼ぶことに慣れてきて、ぎこちなさが消えた。飯島がセンターに赴任して二ヶ月後、石倉は企画部長に出世した。その日を境に、きっぱりと君付けに変えた。支店長であれば同格だが、資材物流センター長は本社の部長より格は下がるからだ。
「どうも、」
「飯島君、どうも、はないでしょう。一月目は15人、二月目が17人、それなりに努力していると評価していたが、今月は一人も辞めてない。今月はあと一週間だが、いったい何人なんだ。」
最後の言葉がきつく、冷たい。
「そうですね、時代が時代だけに、5人くらいですかね。」
「おい、おい、ふざけんな。それじゃあ、お前は、遊んでいるのと同じじゃないか。いいか。言っておくぞ。今月のノルマも15人だ。なんとかしろ。泣き落としでも、あんたの得意な説得でも、なんでもいい。もし出来なければ、お前の首だってどうなるか分からん。」
飯島は押し黙った。顔が引きつって行くのが分かる。返事をしようとするのだが、口がわなわなと振るえているだけだ。しばらくあって、ようやく口を開いた。
「ええ、努力します。」
ガチャンという音とともに、電話は切れた。
飯島は受話器を握り締め、くそっと呟いた。理不尽に囲まれて、そこから一歩も抜け出せない自分自身のふがいなさが悔しかった。悔しさがバネになるのは、その屈辱から抜け出す算段があってのことだ。この会社にいる限り、そんな可能性はゼロに近い。
実を言えば、飯島は、東京支店長時代に競業他社からヘッドハンティングされており、その答えを保留にしていた。収入はかなりアップするが、当初の役職は支店長ではなく埼玉営業所長で、会社の格も下がる。それが気に入らなかった。
それに、自分と同じように絶望に瀕した仲間を見捨てられないという事情もあった。少しでも、自分に出来ることをやってから、じっくりと再就職のことを考えようと思っていたのだ。第二の人生のスタートは、納得出来るものにしたかったからだ。
坂本同様、年下の飯島でさえ、プライドと収入を同時に満足させてくれる就職先があるわけはない。まして、飯島のプライドは、妻、和子に対するプライドでもあった。これが飯島の転職の問題を更に複雑
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