第三章
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くと下半身が起き上がった。
人は追いつめられて始めてその本性をむき出しにする。救いようの無い絶望的状況に追い込まれ、それでも本性を押さえ切れる人がいるだろうか。飯島は酔いの回った気だるさのなか、章子の面影をまさぐった。
佐久間と会って二日後のことだ。早朝、箕輪がいきなりドアを開けてぬっと顔を覗かせた。興味津々という表情を隠そうともせず聞いた。
「佐久間さんのこと、どう思った。やっぱり変だったろう。」
箕輪は作業衣ではなく背広だ。口髭もきれいさっぱり剃り落としている。飯島は厭な予感に捕らわれた。箕輪は部屋に入ると応接にどっかりと腰掛け脚を組んだ。飯島もソファに腰を落とし、そして質問に答えた。
「いや、おおむね普通だと思ったな。非論理的なことを言っても、すぐにそれに気付いて話題をかえた。狂っていればそうはいかない。それはそうと、佐久間さんはお前が本社のスパイだと言っていた。お前の言い訳が聞きたいね。お前がスパイなら俺もおちおちしていられない。」
箕輪はにやりとした。今回は冗談を理解したようだ。
「面白い妄想だ。前にも話したが俺は佐久間さんの誘いを断った。それで俺が彼の企みを洩らすんじゃないかと不安になった。それがスパイという妄想を生んだのだろう。会社はこの現場にスパイなど必要ない。誰もが、うなだれた敗残者だ。」
「その通り。俺もそう言った。それともう一つ。佐久間さんはこうも言った。ヤクザと付き合う奴は信用できないと。」
箕輪はにやりと笑った。そして言った。
「それを言われると弱い。例の産廃プロジェクトの呉工業、あの社長の息子、向田敦って野郎なんだが、こいつが俺に妙に懐(なつ)いちまった。こいつはほんまもんのヤクザだ。しょっちゅうお誘いがくる。10回に1回は付き合うことにしている。」
「ほんまもんのヤクザに懐(なつ)かれるなんて、お前らしい。呉工業の社長を介してか?」
「まあ、そんなところだ。いろいろあって可哀想な奴なんだ。まあ、プライバシーだから話す訳にはいかないが。」
「俺にも話せないってことか?」
「ああ、この会社に関係している人と関わりがある。だから言えん。」
「分かった、ところで、今日は休みなのか。」
この言葉に、箕輪は苦笑いして、胸のポケットに手を差し入れた。飯島の厭な予感が当たった。箕輪の手にあるのは退職届けだった。この日が来るのを恐れていたのだ。箕輪の唇が動くのを暗然と見ていた。
「何やかやと言い訳めいた言辞を弄したが、結局、俺は納得のゆく就職先を探していただけだ。佐久間さんのことも言い訳に過ぎん。実は、待ち望んだオファーがようやく届いた。飯島、俺はここを去る。仙台に行くことになった。谷田建設だ。」
心の支えとなっていた男が飯島を置き去りにしょうとしている。目の前が真っ暗になる。しかし、そんなことはおくび
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