第三章
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かった。飯島はすぐに追いついて、お金をだそうとするが、佐久間の大きな手に遮られた。
「いいんだ、お金は俺が払う。落ちぶれても後輩に金を出させるわけにはいかない。」
飯島は、頷くと、先に店を出た。夜風がほてった頬を優しく撫でる。大きくため息をつき、思いを新たにした。負けてたまるか。奴等に負けてたまるものかと。
佐久間が出てきた。飯島はすかさず声を掛けた。
「どうも、ご馳走さまです。ところで、足を引きずってましたけど、どうかなさったのですか。」
「膝が曲がらない。関節がいかれたらしい。」
「医者には?」
「死ぬ人間がそんなもの直してどうする。放っておくさ。」
飯島はさすがに二の句が継げなかった。
佐久間は道路に出て、手をあげタクシーを止めた。飯島はタクシーの運転手に一万円札を握らせ、「立川まで。」と告げた。すると佐久間が言いなおした。
「いや、草加だ。」
そして、振り返り、笑いながら言った。
「立川のマンションは手放した。今の給料ではローンを払っていけないからな。バブル前に買っていたから、損はしなかったが、手元には一銭も残らなかった。」
そして、にやりとして手を差し出した。飯島は急いで歩みより、その手を握った。佐久間が言った。
「俺はやるよ。」
「えっ?」
「俺はやる。」
「何をやるんです?」
「まあ、見てろ。お前に、後のことは任す。」
「いったい何をやるっていうのです。後のことって愛子ちゃんのことですか?」
「ふっふっふ、それも含めて、とにかく、後のことはお前に任す。いずれ時期がくれば詳しく話すつもりだ。その時は、相談に乗ってくれ。じゃあな。」
と言い、手をぎゅっと握り締めると、タクシーに乗り込んだ。ガラス越しに佐久間の目が怪しく光った。それは通り過ぎた車のライトが、佐久間の瞳を単に照らし出しただけなのだ。しかし、飯島は佐久間の狂気を垣間見た気がして、ぞっとした。
タクシーが走り去ると、飯島は煙草を取り出し、火を点けた。深く吸い込み、息を止め、そして吐き出した。何とも言えない複雑な思いが重くのしかかってくる。
いったい佐久間は何をしようとしているのか。南や石倉に復讐するつもりなのだろうか。時期がくれば話すと言っていたが、復讐に協力しろなどと言うのではないか。飯島は厭な予感に捕らわれた。佐久間とは関わりたくないと言うのが本音だった。
電車の窓から、明かりの点る家々の流れをぼんやりと見ていた。一軒の家の窓が開けられ、そこから若い女性が雨戸を閉めるために上半身をのぞかせた。パジャマが透けてシルエットが浮かぶ。
瞬きをすると、目の前のガラスに自分の顔が写っている。その焦点を再びその女性に合わせようとすると、ふわっと章子の面影が浮かんだ。一瞬だった。会いたいと思った。章子の柔らかな肉体を思い出した。むくむ
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