第三章
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か、飯島。貴様だって嵌められたんだ。悔しくはないのか。あいつらは、いつだって、人を見下している。自分が常に正しいって顔でふんぞり返っている。」
むっとして飯嶋が答えた。
「勿論、悔しいですよ。でも、まだ終わったわけじゃない。」
この言葉を聞くと、佐久間は飯島の目を凝視し、そして笑い出した。敗者の哀れな強がりを馬鹿にしているのだ。ひとしきり笑うと、酒臭い息を吹きかけながら言った。
「強がりはよせ。もう勝負はついている。それより、飯島、おい、お前も知ってたんじゃないか。えっ、そう、お前も知ってたはずだ。」
飯島は、むっとして聞き返した。
「何がですか、何を知ってたって言うんです?」
飯島は、一瞬酔いも醒め、身構えていた。十数年隠し続けてきた事実を酔いに任せ、さらに自暴自棄を暴走させ、白状するか。飯島の心に嗜虐的な思いが芽生えた。
「とぼけるのもいい加減にしろよ。章子と南が出来ていたってことだ。」
と言って、佐久間は押し黙った。そしてふと微笑むと、飯島の目を覗き込みながら言った。
「もしかしたら、愛子は南の子じゃないかと思ったことがある。でも、あいつは、可愛い。本当に可愛いんだ。たとえ、俺の子供でなくてもな。そんなことは関係ない。いや、どうだろう。もし南の子供だと分かったら、本当に可愛いと思うのだろうか。」
飯島は、佐久間の誘導尋問に動揺しながらも、平静を保っている。しかし、その心の均衡は、いつ崩れてもおかしくなかった。酔いも手伝って思慮を失いかけていたからだ。
飯島の心は暴走し始めている。やけくそで言ってしまうか。言ってしまえば心の負担も軽くなる。いや、そうじゃない。佐久間を不幸のどん底に陥れてやれ。自分よりもっと不幸な男を哀れんで、同情する側に立つのも悪くない。
飯島は、焼酎を一気に飲み干し、荒んだ心をもてあましている自分自身に舌打ちした。この秘密は墓場まで持って行こうと決心したはずなのだ。佐久間はそんな飯島の理不尽な思いに気付いているのか、にやりとして言った。
「もう、いい、そんなこと、どうでもいい。真実は闇のなか。章子は、章子。愛子は愛子だ。それに俺の命もそう長くはない。死神がそこまでお迎えに来ている。」
と言うと佐久間は押し黙った。最後の言葉に多少ひっかったが、飯島もさすがに、どう反応してよいのか分からず、目を閉じると追憶の彼方をさ迷った。
佐久間の想像通り、南と章子はかつて恋人同士だった。第一営業部の誰もが知っていたことだ。飯島も、章子に惹かれてはいたが、既に婚約者がいた。章子とは同僚、というより友人として付き合っていたのだ。
しかし、或る日のこと、思いもかけない事態が起こったのだ。南が、社長の娘と婚約したのである。第一営業部の誰もが驚愕し、口をつぐんだ。南が、その高値の花を、何時、何処で、どう手中に収めたのか
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