第三章
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えているのは、章子と子供のためだと思っていた。二人のためにじっと耐え忍んでいる。そう思っていたのだ。
その章子が佐久間を捨てた。飯島は機を見るに敏な章子の一面お思い出し、ふと苦い思いが甦った。章子は惨めな佐久間を見限ったのだ。こんな時、一体何と言って慰めたらいいのか、見当もつかない。佐久間が長い沈黙を破った。
「考えても始まらない。前の女房は、当時、別居中とはいえ、あいつは本気で離婚する気などなかった。いつもの夫婦喧嘩だったんだ。その古女房を捨てて、章子を選んだのは僕なんだから、その罰が当たったわけだ。」
飯島は沈黙した。当時の経緯を知るごくごく少数の者にとって、佐久間ほど哀れな存在はない。その少数の者とは、飯島、かつての友、南、そして章子の三人のことである。
佐久間の深酒は有名だったが、今日もその勢いは衰えず、ぐいぐいと焼酎のコップを傾ける。押されぎみではあるが、飯島も心の空白を埋めるべく佐久間に続いた。ボトルは瞬く間に空になった。
「飯島、結局、産廃プロジェクトは失敗だった。あの事業は確かに目の付け所はよかった。自治体の焼却施設は老朽化していたし、ダイオキシンの問題もあった。それを安全に解体するという発想はよかったんだ。だけど技術が伴わなかった。」
「私はそうは思いません。技術水準だって競合とほぼ互角だった。時期が悪すぎたんです。まさに地方の冬の時代に突入した時期にスタートを切ったのですから。」
「だからこそ、慎重にすべきだった。明らかに地方展開が性急すぎた。それより、いいか、競合他社はバブル崩壊の後、リストラで乗り切った。当社ももっと早く少しづつでもリストラに手をつけていれば、こんな残酷なリストラにはならなかった。」
「しかし、当社はリストラ犠牲者を一人も出さないという会長の頑固一徹の姿勢で乗り切ったという面は否定できませんよ。そしてあのプロジェクトはその会長の夢だった事業です。みんな一致団結して頑張った。」
「あのプロジェクトの開発費は巨額だ。背伸びし過ぎたのかもしれない。」
「私はそうは思わない。いま少し、あと一年、銀行が辛抱してくれたら、何とかなったはずなんです。環境問題と焼却施設の老朽化の問題がクローズアップされ始めていた。銀行が、リストラを前提とした経営再建のシナリオを強要したんです。」
「しかし、結局、社長のあの、リストラ犠牲者を一人も出さない、という一言に燃えて、先頭を走ってきた人間がリストラ対象だなんてのは、冗談にもほどがある。」
こう言って佐久間は力なく笑った。
話は次第に佐久間の愚痴に変わっていた。かつての佐久間は一升酒を飲んでも乱れることはなかった。しかし、今日は小さめのボトル二本で、既に呂律が回らない。酔いどれの敗残者が恨み節を唄っている。突然、佐久間の低い唸り声が響いた。
「おい、聞いてんの
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