第三章
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、答えを返した。
「まあ、率直さだけは評価していいんじゃないですか。」
「おいおい、君が会ってやってくれと言って連れてきたんだぞ。そんな無責任な言い方はないだろう。」
「ええ、まあ、そうなんですがね、私もここまでやるとは思いませんでしたから。まして、私としても、自分の部下は手放したくない。」
佐久間は、この時決心した。飯島が手放したくない人材であれば間違い無い。ましてリストラという憂鬱な仕事、汚い役割に石倉はぴったりだと思ったのである。それに、渡りに船という思いが頭を掠めたことも事実だった。
確かに、石倉は期待以上の働きをしてくれた。憎まれ役を買って出て、それをニヒルにあくまでも事務的に処理した。しかし石倉の不信な動きに気付いた時は、全てが後の祭りだったのだ。石倉は佐久間を最初から裏切り続けていたのである。
もし、石倉が南の指示で送り込まれたのであれば、最初から警戒して秘密から遠ざけていたであろう。しかし、埋もれていた石倉を見出したのは自分だという自負もあり、心から信頼していたのだ。それが躓きの元だった。
本社総務部に潜り込んだ石倉は、佐久間の足を引っ張っぱることに何の躊躇もみせなかった。どんな会社にも暗部はある。まして佐久間は、創業者であり今は会長に退いた先代のために汚れた仕事を全て引き受けてきたのだ。
実は、石倉は南常務の密かな子飼いであり、忠実な死刑執行人だったのだ。またその南を動かしていたのは現社長であり、会長と密かに通じている佐久間を追い落とすという目的があったのである。
ある日のこと、佐久間は怒りにまかせ石倉の裏切り行為をなじった。石倉はその佐久間に対しにやりと微笑んでみせた。その不敵な笑いに佐久間はぞっとさせられたものだ。しかし、今の佐久間は、石倉のそんなクールさを越えていた。虚無が心を支配し、狂気が脳を犯していたのだ。
暖簾ごしに、飯島は佐久間の憂鬱そうな横顔を見出した。店が店だけに、見るからに落ちぶれた姿形を想像していたのだが、グリーンの格子縞のジャケットにジーパンといういでたちで、作業衣の時のうらぶれた印象と違い、お洒落な老年という雰囲気である。
ロマンスグレーに上品な顔立ちは往時のままで、飯島の荒さんでいた心に懐かしさが込み上げて来た。佐久間に対する会社の冷酷な仕打ちに憤った三年前を思い出し、今度は自分の番かと、思わず自嘲した。
建てつけの悪いガラス戸をがたがたと開け、飯島は顔を覗かせた。入り口のその雑音に、佐久間は振り向き、軽く手をあげて応えた。飯島は佐久間の横に腰を掛けると、ビールを注文した。そして微笑えみながら口を開いた。
「ご無沙汰しております。しかし相変わらずお洒落ですね、それにお元気そうで。」
佐久間は、ビールを飯島のコップに注ぎながら、答えた。
「まあ、元気と言えば元気だが、
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