第一章
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く処理出来れば、今は空席の本社営業本部長の席が用意されています。私が飯島さんを押したのも、飯島さんしか出来る人がいないと思ったからです。」
南がぽつりと言った。
「頼むよ飯島君。」
この会社では、年上であっても部下であれば君付けで呼ぶ。これが管理職の部下掌握のバロメーターとなっている。南にとって飯島は同期、いやかつての友であったとしても、部下なのだから、君付けは当たり前のことなのだ。
しかし、会社のそんな風潮に逆らってきた飯島は苦々しい思いを噛みしめていた。二人の目が飯島の次の反応を見つめている。今、営業本部長は南が兼任している。その席に誰が座るか、誰もが注目していのだ。その個室のドアが目に浮かんだ。そして消えた。
飯島は、グラスの琥珀色の液体から視線を放し、ゆっくりと顔を上げると、ふたりを見据えた。石倉が不敵な笑みを浮かべている。南は、視線をそらせそっぽを向いて煙草の煙を吐き出した。
勝負は最初からついていた。飯島の張り詰めた頬が一瞬緩んだ。そして飯島はこう答えるしかなかったのである。
「有無を言わせない南常務の説得は、以前から伺っていましたが、既に辞令は用意されてのことなのでしょう。嫌な役目ですけれど、会社のために全力を尽くします。」
飯島がどれほど抵抗したとしても、二人には通じなかったろう。最初から同意など必要ないのだ。社命は絶対である。問題はその社命が本当に社長の本意なのかということだ。海千山千のこの二人にかかれば、ぼんくらな二代目社長など操り人形にしか過ぎない。そして南は社長の義理の弟、つまり社長の妹の亭主である。
飯島は二人と別れてから、もう一軒立ち寄った。恐らく二人も別の飲み屋にしけこんで、祝杯をあげていることだろう。邪魔者を一人葬り去ったのだから。
飯島は孤独と絶望に打ちのめされた。飲まずにはいられない。全ては終わったのである。リストラ対象者と同様、飯島も会社の首脳陣から不要と判断されたのだ。営業本部長になるという甘言を信じたわけではないが、別の可能性も思い浮かべた。
正直に言えば、営業本部長は無理として、東京支店に返り咲く自分の姿や、竹内のように冷酷に部下を首にするシーンをちらりと思い浮かべた。しかし、部下とはいえみんな苦楽を共にした先輩諸氏なのだ。その首を切ることなど出来るわけがない。
「くそっ」と舌打ちした。その時、ふとある事件を思い出し「まさか、あれが原因か?」と呟いた。しかし、思わず苦笑いして頭を振った。それは一つの契機になったとしても原因ではあり得ない。しかし、それを引き起こしたのは飯島の驕りだったかもしれない。
考えてみれば、南営業本部長の対抗馬であった佐久間総務部長が失脚して3年になる。飯島はこの佐久間の子飼であった。会長が去り、さらに佐久間という派閥の首領を失って、生き延びられただ
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