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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:手品ともいう
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、愉しませてやるのも、結構奥が深くて、大事な事に違いないですから」
「そうですね。今度、気が向きましたら、ケイタクさんを尋ねる事にします。・・・では、私はこれで。そろそろ出立の準備が整って参りましたから」
「ありゃ?・・・あー、みたいですね」

 慧卓は陣地の空を見て納得した。彼方此方から上っていた炊事の煙がかなり数を減らしているからだ。耳を向ければ兵士等の会話の声よりも、鎧ががたがたと揺れて馬が地面を闊歩する音の方が大きくなっているのに気付く。どうやら王女の言葉通り、出立の時間は迫っているようだった。そうなれば鍛錬も、一芸披露の時間も、自然と終了と相成る訳である。

「俺も剣を返さないと。このハンカチ、返しますね」
「いえいえ、いいですよ。愉しい芸を見せていただいた御礼に、其方を差し上げます」
「えっ!?で、でも、悪いですって・・・」
「受け取って下さいな。私の御礼の気持ちですから」
「そ、そうですか?じゃぁ、有難くいただきますね」

 思わぬ贈り物に慧卓は胸を弾ませて、大事そうに服のポケットへと仕舞い込む。それを送ったコーデリアの笑みは正に太陽のように曇りの無いものであり、贈呈の気持ちに嘘偽り、社交辞令の無い、本心によるものだと理解出来る。それがまた慧卓の若々しい心を動揺させるのである。
 気恥かしさを抱きながら慧卓はアリッサの天幕へと赴いて、その内に入ろうとしたが、それよりも前に全身を凛々しい銀鎧に身を固めたアリッサが現れた。腰に差した一振りの剣や背に靡かせる外套も相俟って、まさに騎士の王道を行くかのような晴れ姿に見えた。歩いてくる此方に気付いたアリッサに、慧卓は剣を差し出す。

「アリッサさん。剣を返しに来ました」
「ああ、預かろう。・・・おや、コーデリア様はなぜ彼と一緒に?」
「少し、彼の粋な小芝居を拝見しておりました」
「?芝居、とは?」
「深く追求しないでください。恥ずかしいので」
「はぁ・・・?」

 訝しげに首を傾げる彼女に、コーデリアは再び笑みを口元に湛えた。向けられる疑問の視線に恥ずかしくなり、慧卓は言葉にし難い微苦笑を湛えてそっぽを向く。その視線の先で煙っていた炊事の煙が途中から千切れて風に乗っている。白い残滓が幾秒か宙を泳いでいたが、まるで青空に吸い込まれるように立ち消えとなってしまった。出立の時は間近となっている。


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