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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:手品ともいう
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・あら、こんなところにカスミソウが」

 王女は優しげに顔を綻ばせると、天幕の陰が掛かっている場所の屈んだ。地味な場所にあったため気が付かなかったが、そこには二輪のカスミソウが浴衣を思わせるような淡い紫の花弁を咲かせていたのだ。王女は優美に指先をそこに近付けて花弁を撫で、自然の美しさに目を安らげていた。
 空に雲が掛かって、地面に大きな影が落ちる。彼女の美しい横顔を見て、慧卓は一つの納得を抱く。アリッサが獲得したあのバッジに刻まれていた女性の表情が、花を愛でるコーデリアの横顔に非常に似ているからだ。あれは純真な乙女を象った絵であったのか。製作者であるパックの観察眼には全くもって感心せざるを得ない。

「ケイタク様の所では、剣術などは流行ってはいないのですか?」

 花から視線をこちらに向けて、コーデリアは問う。慧卓は瞬きをし、視線をちらりと外して気を取り直す。

「まぁ、武術全般に言える事なんですけど、どうも敷居が高い気がして、皆が皆好きって訳じゃないですね。俺が住んでいる街、勤木っていうんですけど、そこなんて武術を習う専門の道場なんて、たった二か所しか無いんですよ?それも棒術に忍術っていう、凄いマイナーなもので」
「に、にんじゅつ?」
「えっと、隠密活動をする人たち向けの武術ってやつです。誰かのために陰ながら援助し、時には流血も厭わない。そんな貴い精神を持つ方々のための武術です」
「そうなのですか。そのような武術が往来に居を構えているとは・・・異界というのも、中々物騒なのですね。きっとそこに暮らす男の人というのは、とても勇敢で逞しい方ばかりなのでしょう。ケイタク様は、その例外という事なんですね」
「・・・んー。俺が得意なのはこういうのなんですけどね、本当は」

 こう何度も言われるのは少しばかり癪に障るというものだ。慧卓は樽から剣と鞘を引き寄せ、鞘を地面に置いて、剣の方を真上に構えると、柄頭を掌においてそれを倒さぬよう器用にバランスを取った。剣はぷるぷると微細に動くが、その度に慧卓が手を動かしたり態勢を整えたりしているために地面に倒れる事は無かった。掌をぱっと開いているため下手な小細工を使ってない事がすぐに分かるだろう。

「ね、凄いでしょ?」
「え、ええ・・・」
「こっからが本番です。こいつを口に咥えましてね・・・」

 そう言うと慧卓は顔を真上に向け、剣の柄を掴んで口元まで運ぶ。

「んで、こうするんですよ・・・」

 慧卓は口に柄を入れて咥えると、素早く剣の鞘を蹴り上げて手で掴むと、ひょいと宙に投げる。ふわりと浮かんだ鞘は一瞬最高点で静止した後、自由落下する。それを慧卓は咥えた剣の先端で、鞘の丁度真ん中あたりを受け止めた。金属音を鳴らした鞘は左右にふらふらと揺れるのだが、地面に転げる事は無かった。慧卓
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