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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:手品ともいう
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りでもやってますよ。終わったら返しますね」
「ああ。出立が近くなったら教えるから・・・程ほどにな」

 微笑ましいものを見るようにアリッサは目を向けながら、鞘を樽の上に掛けた後、自分の天幕へと入っていく。慧卓は少し羞恥心を覚えてそれを見送った後、気を取り直すように素振りを始めた。ベースとして想像しているのは剣道のそれであった。

「1,2,3,4、・・・案外きっついな」

 素振り一回に対して消耗する体力が多過ぎるような気がする。これは明らかに膂力が足りない証拠だ。腕の筋肉だけに問わず、腹筋も背筋も大胸筋も足りていない。本格的な武術を学ぶのであるなら脚や首の筋肉も鍛えなければ駄目だろう。脳筋こそこの世界では圧倒的な征服者なのだと、剣より宣告されるような気がした。
 慧卓は奮起して、素振りを再開する。ぶんぶんと振り被っては、剣道のように胸の前でそれを止める。息切れして胸が苦しくなる度に素振りを止め、大きく息を吐いて集中し直す。そうこうして三十ほど数を数えていると、傍に誰かが近付いてくるのが聞こえた。

「30、31、32・・・」「ケイタクさん?」
「あっ、はい?」「ちょ、ちょ、ちょっと!剣をこっちに向けないで下さい!」
「あ、御免なさい!まだ得意じゃなくて・・・って、王女様?」

 慌てて慧卓は剣を引っ込めて樽に立て掛ける。素振りに熱中していた彼の背後に立っていたのは、コーデリア王女であったのだ。既に朝食を終えて身支度を整えた後なのであろう、衣服に乱れは無く髪も上品に整えられている。しかしその秀麗な顔立ちは、慧卓の軽率な行動によって人を叱るようなものに変わっていた。声を掛けられた時に、剣先が彼女の顔に近付いてしまったからだ。

「す、すみません。俺、危うくあなたを殺してしまう所でしたっ」
「本当にそうです!くれぐれも気を付けて下さいね!昔それで、相方の頭髪を皮ごと削いでしまった人が居たと聞いてます!女の命である頭髪を斬るような真似をしたら、容赦しませんからね!」
「お、オーケー。気を付けます」
「本当に気を付けて下さいよ!もしそうでなかったら・・・えと・・・酷い事をします!分かりましたね?」
(あれ、なんかこの人、結構可愛い)

 図太い精神が欲深にも語彙が足らぬ可憐な女性に反応してしまった。王女は立腹したように頬を膨らませた後、先程までの慧卓のなりを見ていたのか、意地の悪い微笑みを浮かべた。 

「さっきの振り、私が覚え始めた時のより下手でしたね。振り被り過ぎて身体が倒れ掛かってましたよ?」
「ありゃ・・・みっともない所をお見せしました」
「ええ。つい数日前に大きな勇気を見せた異界の方とは思えないほど、滑稽な姿でした。男の人でもああなるんですね?」
「なんか王女様、意地悪ですね」
「気のせいですよ。・・
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