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王道を走れば:幻想にて
幕間+コーデリア:手品ともいう
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4.83メートルに値する。また中世期における軍の一日の行軍距離とは、大体12キロから14キロである。騎馬隊が居たり、或は特筆すべき火急なる事情があれば行軍速度はまた違うのだが、今は王都に凱旋するだけのただの温和な行軍である。慧卓の記憶にひしと刻まれる、マケドニアの大王やフランスの皇帝の如き進軍は、此処では起きえないのだ。
 自分の話をまともに聞いてくれなかったと気付いて話を止めたパックは、ミシェルが傍に立ってるのを見て眉を動かした。

「よう、ミシェル。御所望のもんを持って来たぞ」
「遂にできたのか、パック!」
「ああ。こいつさ。これを胸の辺りにつければ・・・ほれ」「おお・・・」

 パックは懐から一つのピンバッジを取り出して胸の辺りに留める。慧卓はそれを見て目を見開いた。ピンバッジというと彼の中では、金属製のピンで穴を通す、バッジに何かのキャラクターの絵が添付されたものなのだが、パックが出したそれは材質こそ違えど、その範疇に漏れないものであった。細い針のついたピンの部分は銅製であり、バッジの部分は木製だ。バッジに描かれているのは、まるでローマ帝政時代に鋳造された金貨のような、一人の端正な女性の横顔であった。ニスが無駄なくむらなく塗られているためか、髪の美しさや鼻筋の通った顔付までが判別できる程で、職人技といってよい。惜しむらくは、これが一体誰を模しているのか分からない事だ。

「いいね」「ああ。震えてくる」
「胸に留めるだけで、もう尻にできたおできなんでどうでもよくなる」
「もうこれさえあれば兵士身分の薄給なんて、考えなくても大丈夫な気がするな」
「全くだ。私にも一つ寄越してほしいくらいだよ。コーデリアたん、可愛いなぁ」
『・・・』

 突如として差し込んできた感想の声に、二人の兵士は顔を強張らせ、くるりと顔を振り向かせて呻き声のような息を漏らす。寝転んでいた木の後ろ側から、アリッサが顔を覗かせていたのである。その碧の瞳は尋常ならざる爛々とした光が宿っており、微動だにせずピンバッジを睨んでいた。慧卓は彼女の指摘を受けて初めて、そのバッジがコーデリア王女を模したものだと理解して感心を深めた。
 アリッサは熟練技術が為し得たバッジをまじまじと見詰めて、パックらに極悪非道な微笑を向けた。

「そいつを寄越せ、雀斑の兵士」
「い、嫌ですよ!王女様の御尊顔を参考にして精魂込めて作ったバッジなんですよ!?原材料だって結構高かったんですから、いくら近衛騎士のあなたといえど簡単に渡せません!」
「そうですよ!これはパックの分なんです!俺の分もまだ出来上がってないんですよ!?」
「今そいつを渡せば、王女様が今朝ご使用された汗取り用の手拭を授けよう。どうだ、要らないか?」
「どうぞこれを御受取り下さい、アリッサ様」「我等の努力の結晶
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