幕間+コーデリア:手品ともいう
[1/9]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
一面緑の草原に、さらさらという草の音がそよぐ。まるで浪間に浮かべてある船の肌に風に泳がされた水がうちあたって弾けるような、実に聞き心地の良い自然の演奏である。うっかりと瞳を閉じてしまえばそれこそ夢うつつとなってしまい、起きた頃にはその温厚な天気によって齎された鳥たちの合唱の中に取り残されてしまうであろう。もくもくと昇る綿雲が鳥の巣のように青空を掠め、地上に大きな影を落としている。影は形を微細に変化させながら何処までも広がる平和な叢を撫で、時折、ぽつんと繁っている家族のような木々を覆い、そのまま何処かへ流されていく。
慧卓は木の下に寝転びながら、何事も考えぬ腑抜けた表情で空を見上げていた。彼の傍では王国軍の一軍による陣が敷かれており、炊事の煙が上がっていた。慧卓の傍で彼と同じように寝転んでいたパックに向かって、慧卓は言う。
「それにしても、此処って平和ですね。どこに行っても平原が広がるばっかり。そういえばさっき小川を越える時、ザリガニを見付けましたよ。すんごい甲羅が真っ黒でしたけど」
「それはクロザリガニってやつだな。まぁ、ここら辺の小川ならどこいっても見付けられるぜ。生だと味が無いけど、煮込むと上手いぞ。甘味が出てきて桃を食っているみたいだった」
「・・・ちなみに聞きますけど、パックさん。俺等が居るのって大体どこら辺なんですか?」
「おいおい、ここがどんな場所か、誰にも聞いてなかったのか。此処はな、マイン王国の北東部に広がっている平野地帯だ。さっき俺等が居た村は、山吹村っていってな。恵まれた土壌の御蔭で中々でかい果樹園があるんだ。あそこで食ったパイがまた絶品だったなぁ。林檎は蕩けるように甘いし、葡萄酒の酸味は程よく舌に乗っかるし」
「は、はぁ・・・」
パックは雀斑のある顔をにへらと歪めて、ぺちゃくちゃと饒舌に甘露について話し出す。甘党の一人談義に少しばかり辟易とした気分でいると、近くにミシェルがやってきた。昨日髪を整えたらしく、刈り上げの痕がきらりと光っていた。
「まぁたパックの甘党談義が始まったな。話は聞いてたぞ、ケイタク」
「ミシェルさん。ってかあなたもタメ口?」
「いいじゃねぇか、気にしてないんだろ?・・・改めて説明するとな。俺等がいるのは、紅牙大陸っていうでかい大陸でな、その東部にでかい国があって、そいつがマイン王国っていうんだ。俺等が仕えている国だよ。んで、俺等がいる場所ってのはその王国の北東部、都から大体70リーグくらい離れた所だ。・・・分かるか?」
「・・・リーグって、なんです?」
「あぁ、それもか。・・・えっとな、大体一日の行軍速度が3リーグから4リーグくらい、っていえば分かるか?」
「あっ!それなら大体わかります!」
慧卓は頭の中の歴史知識を掘り起こした。1リーグとは、距離で言う所の約
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ