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王道を走れば:幻想にて
第一章、その4:盗賊の砦  
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 冷え切った岩盤の空気が静かに牢獄の中に降りていき、鉄格子の無機質さを際立たせる。長々とした慧卓の話に耳を向けていたアリッサは、自分の常識からは考えられぬ異世界の情景に、一つ聞いては驚き、そして一つ聞いては怒りを露わとしていた。世界を違えど、卑しい者達の人の隙に付け入る卑劣さに対しては、同種の感情を抱くようであった。
 そして慧卓は異世界に降り立ったまでの感想を言う。

「って事で、俺はこの世界に来たわけなんです」「・・・そ、それは、随分とその・・・荒唐無稽に聞こえるが」
「まぁ、異世界の話ですから、混乱されるのも無理はないですよ」
「いや、そうではなくてだ。・・・クマミ殿、あなたは女装していたのか?」
「いかにも!」「・・・英雄って何なんだ、一体」
「あの、俺の苦労については何か感想無いんですか?」
「とてもたいへんだったのだな。どうじょうするよ」「あっ、まともに聞いてないんだ・・・そうなんだ」

 せめて慧卓にとっては、脇腹を蹴り付けられて骨を折られた事について同情を貰いたい気分であった。しかし治療用の薬を飲む過程での一悶着のせいで、殊更それを求めるのもどうかという事実も無視できなかった。同じ牢に入れられた仲であるし、下手な波風は吹かせるものではない。
 そう思って慧卓は此処で話を打ち切る事にして、話の忠心を自分から熊美へと移す。 

「アリッサさん。さっきから熊美さんに英雄だ何だって言ってましたけど、そんなに熊美さんって凄いんですか?」
「ああ。この世界、『セラム』においては英雄と言われている。腕を振るえば男が飛ばされ、剣が砕かれ、ノンケの尻が犯されーーー」
「アリッサちゃん?」
「・・・最後のはあくまで馬鹿な兵士達の噂話だ。・・・ま、まぁ、本当かどうかは定かではないが」
「森で襲ってきた賊みたいに、俺を襲わないで下さいよ」
「・・・もう少し精悍になったら好みになるわねぇ。あ、冗談よ。だからそんなにおびえた表情はしないで」
「今のは誰であろうと慄きます、クマミ殿」

 いかに尊敬する人物であろうと、流石に発言が度が過ぎれば引いてしまうものだ。慧卓の背筋にぞぞぞと走った嫌な感覚を消せぬと判断したのか、熊美は苦笑しながら彼から離れる。
 誰もが口をきかぬ変な静寂が場に立ち込めた。話をしようにも何をやったらよいやらで慧卓は困り、ふと上を見遣る。彼につられて熊美が上を見て、呆れるように息を吐いて俯いた。どうやらその様子を窺ってみるに、上階での騒ぎはまだ収まらないらしい。

「・・・長いですね」
「本当。どれだけ盛り上がっているのかしらね」
「・・・そういえば、なんでアリッサさんはあの教会に居たんですか?なんか、慌てていたような感じでしたけど」
「・・・ふむ、貴方達には事情を話した方が良いだろうな。事の始まり
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