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王道を走れば:幻想にて
第一章、その4:盗賊の砦  
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ろ!!王国兵が攻めてきたんだよっ!!」
「なっ、そうならそういえ、阿呆!!」
「今言っただろ、馬鹿!!!」

 どたばたと床を踏みつけ駆け抜ける音が鳴り響き、段々と彼らの荒い足音が遠ざかっていく。上方より轟音が聞こえる事は無くなったが、代わりにけたたましい騒ぎ声が耳に入ってくるようになって来た。

(攻勢が始まったのか?)

 アリッサが言っていた、王国兵の攻勢が始まったのかもしれない。賊徒達も防衛に追われ、捕虜を監視する暇一つ与えられぬであろう。それは詰る所、己の脱出のチャンスとも成り得る。
 慧卓は扉から出でて、洞窟の外へ出ようと足を運ばせる。洞窟内に人の気配は唯一つも無い。通路の横合いに位置する部屋の扉は乱暴に開け放たれており、余程慌てた様子であったのであろうか寝台のシーツが滅茶苦茶に乱れて床に落ちていた。
 そして慧卓は一つ、二つと坂を上っていく。足元や天上を覆っていた天然の壁土による薄ら暗い色が消え去り、代わりに人工的に組み合わせれて明るい色をした木材が姿を現してくる。天然の洞窟を抜けて、本当の砦の内部へと戻ってきたようだ。慧卓は砦内に設けられている階段を幾つか登り、長く細い通路を駆け抜けていく。彼の脳内に此処を通ってきた記憶は存在していないが、而して轟々とつんざめく男達の雄叫びより遠くへ行くためには、この道を通るより他無かった。
 慧卓は通路の突き当たりにある扉を勢い良く開け放ち、其処にあった光景に目を瞬かせた。

「・・・なんだ、これ」

 蛮声が共鳴し、轟音が鳴り響く。粗野な風貌をした賊徒達が木壁に立って殺意に身を滾らせて弓矢を握り、その鋭利な鏃を砦の外へと射ち放っている。そして彼らが身を屈め木壁に隠れれば、高調子の雨が壁の外から襲来し、壁に突き刺さり、幾本は壁を乗り越えて広間や砦に突き刺さる。呻き声を漏らした男が背部に突き刺さった矢を握り、すごすごと砦内へと戻っていく。慧卓は現状を理解する。王国の軍隊が、砦を奇襲している。
 幾人もの屈強な男達が必死の形相で砦の門を押さえつける。その門は幾秒もの間隔を置いて非常に力強く、門の外側の方から押されていた。押されるたびに軋むような轟音が鳴り、木がみしりと音を立てて揺さぶられて賊徒らの余裕を削っていく。慧卓は門を押す正体に数秒を掛けて気付く。門を攻めているのは、破城槌なのだ。
 現実においては、ゲームの中でしか、映画の中でしか知らない光景。それは紛れもなく、彼にとっての異界の風景であったのだ。

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